涙でぼやけた視界に現れた、泥だらけの服に、鼻の頭の絆創膏、曲がったキャップ帽の男の子。 ぶっきらぼうに鼻の頭を指でこすり、ん!、と一言だけ呟いて男の子は私に、泥だらけの靴を差し出した。 「ん!」 もう一度、その男の子はそう呟いて、押し付けるように靴を渡してきた。泣きじゃくりながら受け取ると、男の子は私の隣にドスン、と座る。 私の片足は、素足だった。 近所の男の子に片方の靴を取られ、靴が無いから走って追いかけることもできず、ただ座りこんで泣きじゃくっていた所にやってきたのが、隣に座っているフィンクスだった。 「泣くなよ」 『……ぅ、…ぐすっ、』 「アイツらはぶっ飛ばしてやったから、もう泣くな」 『…ありが、と、』 「…おう、」 にっ、と白い歯を見せてフィンクスは笑った。照れくさそうに、曲がったキャップを直して、お日様みたいに笑った。 この笑顔が好きだった。 物心ついた頃から、いつも隣にはフィンクスがいた。家が隣り同士、ということもあり、遊ぶ時も、今日みたいに誰かにイジメられた時も、いつもいつも隣にはフィンクスがいた。 「はらへったから、帰るか」 『うんっ!』 また服を泥だらけにしちゃったから怒られちゃうね、と言うと、フィンクスはまた笑った。 ずっと続くと思ってた。 ずっと一緒にいれて、ずっと私の隣には、あたりまえのようにフィンクスがいるんだ、思ってた。 いつからだろうか。 いつから公園の砂場で、砂遊びをしなくなったんだろう。 いつからブランコで、どっちが高くこげるか、なんてバカな競争をしなくなったんだろう。 距離ができるのは、あまりにも自然すぎて、どこで二人が進むべき道を変えたのか、きっと私にはいつまで経ってもわかりはしないんだろう。 貴い人 あなたの笑顔はおひさまみたいだった |