ぽつり、ぽつり、 雨の降るなか、とぼとぼ歩いて帰っているとふいに誰かに背中を押された。 振り返ると、ビニール傘をさしたフィンクス。いつもは遅刻ギリギリに自転車で通学している彼だけど、雨の今日はさすがに歩いての登下校らしい。 「一緒に帰んの、いつぶりだろな」 『ふふ、フィンクスいつもギリギリだもんね』 うるせー、と荒い口調でいいながらもフィンクスは笑っていた。 英語の小テストがあるから今日は暗記しないといけない、とか。世界史の先生は、寝ていても注意しないからいいやつ、だとか。しばらく、たわいもない話しをしてから、フィンクスがためらったように口を開く。 「お前シャルナークってやつと仲イイのか」 『シャルナーク?』 「ハンカチもらってたろ」 『ああ、あのひとか』 シャルナークっていうんだ、あのひと。 フィンクスにあの朝のことを話した。朝練していたサッカー部のボールを顔面に受けて、鼻血を出した彼に、ハンカチを渡したこと。汚したからと言って、新しいのをわざわざ買ってくれたこと。シャルナークという名前という人物なんだ、といま知ったこと。 「そんだけ?」 『それだけ、だよ』 ふうん、とつまらなそうに呟いてフィンクスは納得したようにため息をついた。 「フェイタンがよぉ、お前とアイツができてんじゃねえかって言ってたから」 『あはは、ありえないよ』 「……だよな」 『…あ、』 「あれ、同じクラスのやつだな」 少し先のほうに同じクラスの男の子と女の子が、相合い傘をして、手を繋いで歩いていた。ふたりとも幸せそうに寄り添って笑っているみたいだ。まだ入学したばかりなのにすごいな、と感心する。 『フィンクスはね…、』 「ん?」 『…みんなみたいに、だれかと恋愛とかしないの?』 「………れんあい?」 『……うん』 「……」 『……』 ドクドク、と心臓が痛いくらい高鳴った。 最近はあまり直視しなくなったフィンクスの顔を、無意識にみつめて、言葉を待つ。彼は、悩んだように後ろ髪をかいて、うーん、と少し考えてから、薄い唇を開かせる。 「めんどくせーし」 『……』 「興味もねーよ」 『……、』 ツキン、 『そっかあ、』 チクチク、胸の奥が変に痛んだ。なんともなさそうな顔で、淡々と告げたフィンクスの言葉がずっと頭の中で響く。 なんだろう。 この変なキモチ。 「おまえは?」 『…わたしは、』 ―――なぜだか、しばらく、言葉の続きがでなかった。 『そういうの、よくわかんないから』 えへへ、と苦笑いした後に、少し後悔した。フィンクスは、またなんともないような顔をしていたから。私は必死に自分の中でもモチベーションを、むりやり上げようとして、自爆してる。 ねえ、笑ってよ。 いっつもみたいに。 なんでそんなに険しい顔をしているの。 なんでこっちを見ずに、遠くの方ばかりみているの。 私はフィンクスになんて答えて欲しかったんだろう。 仮に、好きなひとがいる、といわれた所で素直に喜べただろうか。好きなひとを想って、優しく笑うフィンクスの顔をみて、素直に応援しようと思っただろうか。めんどくさい―――、彼から言われた言葉が一番いい回答だったのかもしれない。 その後は、なるべく自然に作り笑いして、家までふたりで帰った。家につくまで、なぜか、あまり顔をみれず、無意識に下ばかり見てたと思う。 意識を止めて いまはなにも かんがえたくない |