「アンナちゃん」 聞き慣れない声と、それが呼ぶオサナナジミの名前に無意識に反応した。 隣の席のアンナに、見慣れない男が女物のハンカチを渡している。いかにも好青年のソイツはきらきらした笑顔で少し照れたように笑う。 「汚しちゃったから、代わりと言ってはなんだけど…」 『わざわざ新しいのを?』 「はは、まあね」 『も、もらえません』 「もらってよ。こんなのあっても困るし」 アンナの為に買ったから遠慮せずに、と少し押し付けるように男がハンカチを渡すから、押しに弱いアンナは申し訳なさそうに、それを受け取った。 『……ありがとう、』 「じゃあ、また」 アンナがこくん、と小さく頷いたのを確認してから、男は教室から出て行った。 だれだ、あいつ にくまれやく じれったくて、 こっちまで腹がたつ。 「たしか、隣のクラスのシャルナーク」 「どんなやつ?」 ガシャン、と背中にフェンスがあたる。屋上で昼飯を食いながら何気なくフェイタンに尋ねると珍しくベラベラと、あの男について話し始めた。 めちゃくちゃ頭がよくて、そのうえにめちゃくちゃ運動ができて、甘いルックスからか、女子にも男子にも大人気らしい。 頭脳明晰、 文武両道、 容姿端麗、 おまけに誰にでも優しくて、イヤなとこなんてどこもない。 人に聞けば聞くほど、長所しかでてきやがらない。どこまでも完璧なやつで、なんだかムカムカしてきた。 「どうするか」 「…なにがだよ」 「大事な大事なオサナナジミのこと」 「……どーもしねーよ」 「へえ、」 フェイタンのにやついた視線が妙にむしゃくしゃする。何が言いてえんだか。 「アイツはただのオサナナジミ」 アンナはただのオサナナジミ。家が隣同士で、ガキの頃から知ってて。だからこそ、変なやつに引っかからないか気になってるだけ。何度もいうが、アンナはただのオサナナジミ。 「ただのオサナナジミ…、か」 「ああそうだよ」 いらいらいらいら。 「ただのオサナナジミなのに、そんなに腹立つか」 「だああ!うっせーな!」 「単細胞」 「は?」 「冷静になて考えるよ」 「なにをだよ?」 「…お前、つくづく救えないやつね」 呆れたようなため息をつくフェイタンに余計に苛立つ。ムダに晴れた青空にさえも、ムカついてしまった。雲一つない青空を見上げて、舌打ち。 「知らない所で、オサナナジミがあの男とデキててもしらないよ」 「ありえねー」 「……」 「……ありえねえ、よ」 あの男は、なんでアンナにハンカチなんて渡したのか。 どういう関係なんだ。 アイツが男と話してるとこはあんま見たことねえし、彼氏じゃあないはずだ。たぶん。つーか、じゃあまた、ってなんだ、またっていつだよ、なにアンナも頷いてんだよ。 むかつく。 |