『クロロまだー‥』 ペラリ、と紙が擦れる音と。退屈そうに彼を呼ぶ少女の声。 「待ってると言ったのはお前だろ」 それはそうだけど、とポソリと呟く。今日は二人で出掛ける予定が生憎クロロは昨晩やっと手に入れることのできた分厚い古書に耽っている。一人がけのソファーに座り、そこから一歩も動くことなく朝から読み続けているクロロに、読み終わるまだ待ってる、と言ったのはアンナの方だった。 『どのくらいかかる?』 「さぁな」 『あとちょっと?』 「‥・・・・‥」 (あ、とうとう返事もしてもらえなくなっちゃった。) 素っ気ない返事に彼女が本日5度目の溜め息をつく。この男の事だ、読み終わるまでは動くつもりはないだろう。気が小さい彼女も彼に強く言えない性分。 『‥・・・よいしょ、』 気の小さい彼女がおもむろに立ち上がり、クロロの背後へ近寄る。気付いている筈なのに、彼はまるで見向きもしない。 「‥・・後で構ってやるから待ってろ」 ペタリ、と彼女はソファーで寛ぐ彼の頬を包む。頬に柔らかい指先の感触がクロロの頬を撫でるが、それでも古書からは目を離さない様子を見て彼女の右手は古書に滑る。 「オイ、返せ」 読みかけの古書は彼女の右手に。無愛想に吐かれた発言に無言のまま落とす。ポトリ、と彼の服の上に落ち、右手は再び頬へ。 「何のつも───…」 時間が、止まった。 唇に感じた柔らかい感触。クロロは背中から頬を触っていたアンナに上に向かされ、抗議の言葉を口にする前に遮られてしまった。目の前に映るアンナの悪戯っぽく笑う顔もほんのり桃色に染まっている。 『えへへ・・、してやったり』 いつもヤラれ役の彼女がにんまり、と笑った。 「ッ───…‥」 『ぅゎッ──‥』 ガタガタッ───‥ 倒れたソファー、組み敷きられたアンナの身体。後頭部の鈍い痛みと共に目を開ければ、さも愉快、ともいうように片口を引き吊らせるクロロの姿。彼の手は、彼女のシャツのボタンへ。床に転がる古書を気にも止めず、抵抗するアンナの両手を片手で拘束。器用にプチプチ、とボタンを外す。 『え、ちょ、クロロ?』 「お前が悪い」 彼の顔がヤケに黒い笑顔、仕返しと言わんばかりの勝ち誇った顔。逆に彼女は青くなる。もうシャツははだけていた。 END ← ×
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