映画:緋色の幻影 勝手に番外編です。 綺麗な星空だった。 少し肌寒い空気が頬を過ぎる。物足りないのは、こんな寂しい気持ちになった時、見計らったように隣にきてくれた、彼の姿がないことだ。もう、それにも慣れてしまいそうな、自分がいる。けれども、私はひとりじゃないと思えるのは、あなたが私を導いてくれた居場所があるからです。 あなたもさみしいのかな。ちゃんと食べているかな。風邪なんて引いてないかな。 ーーー・・・ねえ、気がつけば、心の中で、そんなことばかり考えてしまっているんだよ。 「珍しいね、」 「・・・ヒソカ、」 ふわり、とほんの少しだけ懐かしい香りとともに現れた、仲間だった男。作ったような微笑みの男を見たとき、私は自分の心が意外にも平穏だったことに、笑ってしまった。 「君がひとりになることもなくなったから、会えなくなったし」 クロロがクモから離れた夜から、誰も何も言わずとも、わたしをひとりにすることがなくなった。クロロが戻ってくる日に、わたしが迎えられるように、なるべくホームにいるようにしていた。 そせて、必ず戻ってくる、という団員達の確信は、言わずもなが、わたしの保護に徹することに向けられている。 「ノブナガが反対するだろうから、はなから参加するって言わないよ。みんなの人形を壊すなんて。いい気持ちにはならないし。私はあの屋敷の痕跡を全部消すために呼ばれてる」 「キミの念で跡形もなく、屋敷ごと消してしまおう、って?」 「そうだよ」 「ふぅん」 「・・・」 「・・・聞かないの、クロロのこと」 「聞いてほしいの?」 「クロロも君のこと聞かないんだ、つまらない」 「クロロらしいね」 「らしい?」 「ヒソカの口から私のことを聞きたくないんだよ。ヒソカが勝手に話すのは百歩譲っても、絶対自分から私のことを聞こうとしないよ」 「そういうものかい?」 「そういうものだよ」 「ふうん、」 「ヒソカだってわかってるくせに、意地悪なこと聞かないでよ」 「・・・ねえ、恨んでる?ボクのこと」 「ふふふ」 「・・・」 「悪いだなんて、これっぽっちも思ってないくせに。おかしなこと聞かないで」 「つれないなァ、」 「クロロがいなくなった夜、あの飛行船下で、涙を堪えてじっとクロロを見つめる私のことを全然見なかった。そのまま朝が来て、クロロがいないことが実感できなかった。でもとても冷静だった、変だよね。もっと乱れて、壊れてしまうと思っていたのに」 「壊れてほしかった。ボロボロになるまで壊れてしまえば、拾ってあげたのに」 壊れた玩具は要らないくせに、と言い返せば、それもそうだけど、とヒソカは笑う。 恨んでいないか、と聞かれて、ウボォーの笑顔が浮かんだ。とても強くて、逞しくて、男らしくて。パクノダの横顔も浮かぶ。賢くて、綺麗で、よく面倒をみてくれた。大好きだった。2人のことが、大好きだった。 「・・・さっき、恨んでるか。聞いたよね?・・・私ね、ヒソカのこと、恨んでないって言えば嘘になる。あの数日間でクモの失ったものは大きい。でも仕方がないよ、だって私たちの関係って、そういうものでしょう」 「今日はえらく大人だね」 「クロロがヒソカを気にいってた意味も、あの夜に私を見てくれなかった意味も、最近すこしわかるようになってきたから」 「ふぅん、」 「前まではわからなかったけど、」 「・・・いいね。今日みたいにクールな君も。いつもみたいに、翻弄されて慌ててる君も、どっちもそそられる」 「ありがとう。でもマチとノブナガが戻ってくる前に、私から離れたほうがいいよ」 「また、会いにくる 」 「うん」 「クロロに何か伝えたいこととか、言いたいことはあるかい?」 「・・・ないよ、なにもない」 「・・・そう、じゃあ」 「じゃあね」 白くて、大きな手が、わたしの頭を撫でたと思えば、風に乗って消えてゆく。久しぶりに誰かに触れられた気がする。懐かしくて、涙が出そうだった。 「ふふふ」 ざわざわ、と木が揺れる。思わずこぼれてしまった笑いが、かき消される。最後までとことん意地悪な男。 「意地悪だね、ヒソカ」 伝えたいことも、言いたいことも、まとめることが出来ないくらい、たくさんあることを、知っているはずなのに。 クロロに伝えたいことは何もない、なんてもちろん嘘だ。クロロと出会って、魂を得ることができた。はじめは自分の感情をコントロールできず、戸惑ってばかりだった。苦しくて、もがいて。今でもそうだ。 けれど、クロロが好きだ。クロロが帰ってきたとき、ホームで迎えるために。わたしは、わたしがやるべきことを、やればいい。 ← ×
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