親の欲目、という言葉があるように。これに抱く感情もそれに近いものだと思うのだ。 彼女をみると砂糖菓子を時折、連想してしまう。見た目は色素が薄めの多彩な砂糖菓子だが、口の中に入れるとふんわりと柔らかい甘味の広がるあれだ。 まだ薄暗い中、目を覚ました。今日はこんな時間帯から仕事の準備に取りかからなければならない。まだ隣にはぐっすりと愛しき人が眠っている。喉の渇きを潤すために、冷蔵庫へ向かおうとした時、ふいにシャツを掴まれた。 「ったく…お前は、」 一度起こした身体を、もう一度シーツの中に戻す。無意識に掴んだのだろう彼女の腕は、抱き寄せれば自然と力を抜いていた。 『……ん、』 「…起きた?」 『くろ…、くろろ、』 「はいはい、」 言葉足らずに名前を呼ぶ彼女の頬を撫でると、甘えるように胸元に寄ってくる。どうやら手を繋いでほしい、ということのようだ。シーツの中に埋もれていた小さな手を引き寄せ、少々強めに握ってやる。 こういう時は素直だ。いつも街中で手を繋ごうとするだけでも恥ずかしいと言ってくるくせに、ベッドの中じゃこうやってねだってくる。 「…起きて」 『……ん、』 「ほら」 『…も、じか、ん?』 「おはよう、早く着替えて出ないと」 『ん、』 「…アンナ」 頬を撫でながら起きるように催促すると、シーツを寄せもぞもぞと頬をその手にこすりつけてくる。無意識なのだろうがとても気持ちが良さそうな顔に、思わずクロロの頬も緩んだ。 自分ももう一度シーツの奥に入る。アンナの腰に手を回し身を引き寄せた。するとアンナ自ら頬を胸板に寄せてきた。 「…普段からこれだけ甘えただったら苦労しないのに」 もともと少しの物音で目を覚ましてしまうアンナが、この部屋で二人きりで眠ると冬眠した小動物のように目を覚まさなくなる。 本当は今から支度をして現場に向かわなければならない。しかし、これほどぐっすり眠っている様子を見れば起こすのも可哀想になる。クロロは小さくため息をつくも、それは決して呆れたようなものではなかった。 「甘えてくれるのは嬉しいけど、早くしないとシャルにどやされる」 『……う、ん、』 ついばむようなキスを繰り返してやると、アンナは眠たそう片目を擦りながら瞳を開けた。 「着替えはテーブルにあるから」 『ふぁ、い』 「さてオレも着替えるかな」 ベッドからやっとのことで這い上がったアンナは、だらだらと洗面台に向かう。 クロロも起き上がり、真新しいシャツに腕を通した。歯ブラシを咥えたアンナが思い出したようにパタパタと音を立てながらクロロの元まで走ってきた。 『おはよ、くろろ』 「……おはよう、アンナ」 まだ言ってなかったから、と笑うアンナはまだ幾分か眠たそうに見えた。少し乱れたパジャマの袖を直しながら、また洗面台へパタパタと走っていく小さな背中。 ――――オレはお前がまだ寝ぼけてた時に言ったんだけど、な。 クロロはそう口には出さず苦笑いした。アンナのあのパジャマは少し大きいようだから、仕事の帰りにでも新しいのを買ってやろう。 END ← ×
|