ホコリっぽい倉庫の中で、懐かしいランプを取り出しながら、今朝方まで見ていた夢のことを考えていた。妙な夢が日増しにリアルになっていく。 今までは真っ黒な世界の中に誰かの声ばかりが響いていたが、今日みた夢は声の主の顔を見ることができた。あれは、確かに私だった。しかし私であってわたしでないような気がした。幼い私が私に向かって、憎しみのこもった瞳で睨んでくる。あの少女はだれなのだろうか。 「なにしてるの?」 『ランプを探してた。ここのところ日暮れが早いから、森に持っていこうと思って』 「ああ、それがいい」 『今日はお父さんは・・・?』 「2.3日後に帰ってくるみたい。その時、ふたりで話してみよう」 『・・・うん』 「今日オレは仕事でいないから、森に行くのはやめておきなよ」 迎えに行く役がいないからね、と笑うイルミはごしごしと強めに頭を撫でて、準備に行った。ランプに被った誇りを掃いながら、箱の下に小さな写真が置いてあることに気付いた。幼いイルミとミルキの写真だ。 「イル兄、かわいい」 ふたりとも、くりくりのネコ目で、イルミの髪も今よりもずっと短い。ふと、違和感を覚えた。 『わたしのは・・・?』 私の映った写真は一枚もない。よくよく考えれば、なぜこんなにもイルミの子供の頃の容子が新鮮に感じるんだろう。 『ない、やっぱりない、』 倉庫の荷物を手当たり次第、探ってみても出てきたのは他の兄弟の写真ばかり。 考えれば、考えるほどに、小さい頃の記憶やそのころの感覚がすっぽりと抜け落ちているような気がした。ただの思い過ごしであって欲しいと思うが、なにより幼い頃の写真が一枚もでてこなかったことに、私の頭は混乱していた。 私だけ写真がない。 私だけ似ていない。 私だけ殺しの訓練を受けていない。 それがどういう意味、答えを指すのか考えたくなかった。 PREV|BACK|NEXT ×
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