「なぁ」

切っ掛けは些細な好奇心。
同じ1年で同じポジションで、超人変人揃いの中で一際目を引く、平凡。

「え?オレ?」
「そ。えーっと……」
「ああ、名前?降旗」

合同練習の休憩を狙って声を掛けた少年ー…降旗は首から下げたタオルで汗を拭う。並み居る強豪校の中でも秀徳の練習は特にキツイと風の噂で耳にした事はあるが、正直誠凛の部員達もそれと遜色無い濃さと量を日常的にこなしているのだと、高尾はこの合宿で初めて知った。
楽しい部活と勝つ為の部活は違う。前者の心構えであれば到底耐えられないであろうそれに不恰好ながらも必死で付いて行こうとしているのだから、この男の内にも少なからず闘争心や根性といった男臭い一面があるのだろう。
けれど悲しいかな、圧倒的な才の上にも努力を重ねるチームメイト達には、それは遠く及ばない訳で。
派手さに欠けるその特性ー…彼独自の武器に気付いているであろう人間も、きっとまだ多くは存在しなくて。

「オッケー、降旗な。オレは…」
「高尾だろ?知ってるよ」

その能力から緑間との掛け合い漫才まで、ある意味試合以上に降旗の印象に残ったのがそれだ。文武両道の格式高い秀徳にしては少々軟派な言動と、試合での的確なボール捌きや鋭い観察眼は正にギャップの一言で、気付けば同じポジションという事もありそのプレーを目で追っていた。名前が鮮明に記憶に残っていたのも、恐らくはそれが理由としては大きい。
そんな相手から声を掛けられたのだから、降旗も表面では平静を装いつつ内心では多少動揺していたりした。

「…あのさ、ほぼ初対面で行き成り余計なお世話っつーか、すげぇ偉そうって思うだろーけど…」
「?」

唐突にこんな切り出し方をされれば疑問を抱くのも当然だろうと高尾自身も思った。けれど、何故か告げずにはいられなかったのだ。
例えば合同練習中に行ったミニゲームで何度も鷹の目を掠めた、攻守の些細な綻びを繕うような繊細な立ち回りとか、得点後にチームメイトとハイタッチを交わした際の笑顔だとか。
それらをもっと視界に捉えておきたいという願望が、いつしか高尾の心の内を占めるようになっていた。

「…折角良い武器持ってんだからさ、ちょっと試合に出れないくらいで腐んなよ」
「…へ…?」

案の定目を丸くした降旗に漏れたのは微笑。複雑に絡み合った心境を一から説いて聞かせる気など無く、ならば同じように、彼自身にも此方の存在を刻み込んでみようかと、高尾は殊更低く次の言葉を紡いだ。

「オレのホークアイは知ってるだろ?良い位置に居る奴ってのは自然と視界に入って来るってワケ。だから、お前のいいトコはオレが全部知ってる」





【もう一歩で恋におちる】





だからー…さ、さっさとオレに堕ちちまえばいいのに



END
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