*シズちゃん誕生日おめでとうSS














「しーずちゃーん!」


電車に乗っていつもだったら絶対に降りない駅で降りて改札を出た途端に、見たくもない顔がもうそれはそれはウザったらしい笑顔で手を振っていた。
額に青筋が浮かびそうになるのをありったけの自制心で抑えこむ。
そんな静雄の葛藤も露知らず、その眩しすぎる笑顔の臨也は軽やかに人ごみをすり抜けて静雄のもとにたどり着いた。


「ごめんねーいきなり呼びだしちゃって―。俺が池袋行ったらシズちゃん怒るからさぁ、シズちゃんが新宿来ればいいじゃん、って思ってさー。まさかこんなすぐ来てくれるなんて思ってなかったけど!!」
「うっせぇ!誰がこんなとこ好き好んで来るかこのノミ蟲野郎!手前みたいに俺はいつも暇じゃねぇんだよ仕事中に何の用だ!?」
「え、だってもう今日上がりだったんでしょ?じゃあもう仕事ないじゃん」
「・・・なんで知ってんだコラ」
「やーだなぁ、俺を誰だと思ってんのさ」


あはははは、とどこか人を嘲笑うかのような笑い声が駅の改札口に木霊する。
本当はそんな声も聞きたくなかったし早いところ一発殴って帰ってやりたかったが、静雄が新宿に行くことを知ったトムが、「他の人の迷惑になるのだけはやめような?な?」と言って臨也を殴るのを禁止したので仕方ない。
しかし何で今日に限って。
苛々が募る中で、静雄はポケットから煙草を取り出し、火を点けながら駅の外へと歩き出す。
その横に当たり前の様に臨也がついてくるのはもう諦めた。


「で・・・手前何のつもりだ」
「何のつもりって?」
「またどうせ意味わかんねぇ事考えてんだろーが。ぶっ飛ばされる前に吐け」
「暴力反対だよーシズちゃん」


にこにこと邪気のなさそうな様子で笑いながら、臨也は静雄の腕をぐいと引っ張った。
その力が思いの外強く、油断していた静雄は踏ん張りきれずに臨也に引きずられる形となった。
慌てる静雄をよそに、臨也はずんずんと歩いていく。


「お、おいコラ手前!何しやがんだ!!」
「百聞は一見に如かず、ってね」
「はぁ?」
「言うより行動に移した方がいいと思ってさ」


どういう意味かいまいちよくわかっていない静雄に、臨也は振り返って、またにっこり笑うのだ。
いつにもまして鮮やかに。
しかしそこには邪気はない。


「今日はシズちゃんの誕生日だもん。俺にも何かさせてよね?」




















誕生日。
・・・そういえば幽がそんなことを言っていたような。
何となく朝には覚えていたような気もするのだが、仕事に出てすっかり忘れてしまっていた。
だが大人になって歳を取るといっても別に嬉しいことじゃないと思う。
確かに大人になることはいいことだとは思うが、それだけ若さが無くなっていくというか、この結構楽しい仕事を続けるのも1年減ったんだな、とかを思ってみると嬉しくない。
トムみたいな大人になりたいなと思ったとしても、もし静雄がそう思った時のトムの年齢に追いついたとしても、トムはその分更に歳を取っている。
子供のころから薄々思ってはいたが、誕生日なんて皆がくれるプレゼントと美味しいケーキがあるからこそのものだと思った。


「はい、どーぞ!」


なんて思っているうちに、いつの間にか目の前にはいつか殴り込んだことのある臨也の高級マンションの入り口があり、そのまま臨也の家に押し込まれて、頭がいまいちついてこない状況でいると、臨也がでかい袋を静雄に押し付けてきた。
どーぞ、って。
良く良く見るとその袋には綺麗にリボンが掛けられてあって、さりげなくHappy Birthdayなんて書かれたメッセージカードがついていたりして。
静雄は目を疑った。

・・・これは。
まさか。
いや、プレゼントはまさかじゃない、その、いま自分に渡そうとしてる人物がまさかなのだが。


「・・・え、何?だめ?これじゃだめ?もっとでかいのがいい?あ、誕生日プレゼントだからもっと高い方が良かった?」
「あ、いや、そ、そんなんじゃねぇけど、」


慌てて臨也からプレゼントを受け取って、まじまじと見つめる。
ピンク色のビニール袋。
・・・そうか、これが臨也の好みか。


「ん、ちょっと、今なんか変なこと考えてない?」
「いや、別に。ってか、これ、」
「シズちゃんへの誕生日プレゼントだよ?」


今更何言ってんの、と笑う臨也が静雄の背中に回って押してきた。


「ほら、ソファ座って。開けていいから」
「あ・・・あぁ」


戸惑いながらソファに座って怖々リボンを解いてみる。
未だに臨也のからのプレゼントという事実は信じがたいが、貰ってしまったものは仕方ない。
何より、プレゼントの存在が単純に嬉しかった。
袋の口を開けてみると、思った以上に中身がぎっしり詰まっていた。
ふわふわしているものからごわごわしているものまで手触りは様々。
取り出してみて、それを見た静雄の顔に臨也が笑った。


「ね、いいでしょ?これなんかシズちゃんに似合うと思ったんだよねー。あ、因みにこれは俺とおそろいー」


静雄の横から臨也の手が伸びて、それを俺に広げて見せる。
今までプレゼントなんて数えきれないくらいに貰って来たけれど、こんなプレゼントは貰ったことがなくて、静雄は、何と言えばいいか分からなかった。
ジャンルは様々で統一性がないが、どうやら一式としてコーディネートされているらしく、一応その区分でまとめてあるらしい。


―――大量の衣類。


「・・・これ、手前が?」
「そーそー。シズちゃんずっとバーテン服じゃん?私服のシズちゃんが見たいのもあったけど、やっぱり着てほしいのとかいっぱいあってさ、頑張ったよ俺」
「・・・そうか」


手の中にあるパーカーを恐る恐る広げてみる。
着たことの無い柄と、久々に見るバーテン服以外の自分の服。
自分の服と言っていいのか分からない程、こんな柄は着たことがないが。
だが。
胸がほんのり熱くなる。


「嬉しい?」


臨也を見ると、実に嬉しそうに顔を覗き込んで来る。


「ね、俺からのプレゼント、嬉しい?」


胸が熱い。
こんなノミ蟲の選んだ服が嬉しい。
―――臨也が自分の為に選んだプレゼントが、単純に嬉しい。
着たことの無い服だったとしても、自分の為に選んでくれたことが単純に嬉しい。
だから、素直に、言えたんだろう。


「・・・そうだな、」


嬉しいよ。


ありがとな、と出来る限りの笑顔で礼を言うと、臨也の顔が見たことの無いくらい、真っ赤になって、こちらも真っ赤になった。













(近いうち、これ着て手前と一緒に出かけてやるよ)











・・・・・・・・・・
実は静ちゃん大好きな臨也が好きだ。愛してる。
いつも喧嘩ばっかなんだし誕生日くらい愛しあったっていいじゃないか。
・・・全く。(何)


兎に角何日か遅れちゃったけどたんじょうびおめでとうしずたん!!
なんか祝いきれてなくてごめんね!!←
寧ろ俺得臨也得でごめんね!!←←


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