剣道を怪我で断念したのは中学に入ってすぐのことだった。
ちっちゃい頃からやってきて、大会とかでも優勝できていたから、正直剣道の人生を送ってもいいかななんて思ってたんだけど。
怪我であっさり止めることになった時は、自分でもびっくりするくらいショックだった。
まぁ自分でも知らないところで依存してた所があったのかもしれない。兎に角剣道一筋で生きてきたもんだったから、心の拠り所を無くしたようなものだった。
何にもやる気が起きなくて、人生ってしんどいなぁなんて思ってた時に、いきなり知らない人に声をかけられた。
よく分かんないまま音楽室に連れていかれて持たされたのは、テレビとかでちらっとしか見たことがない楽器。
一方的に持ち方やら吹き方やらを教わって目を白黒させてる僕を見て、その人は明るく笑って、その楽器を吹いたんだ。
その時聞こえたのは、今まで聞いたことの無いような、爽やかで真っ直ぐな音。
夏真っ盛りの暑い日に、全開の窓からうざったいほど青い空に向かって飛んでいったその音に、僕は心を奪われた。
そんな音を事もなげに出した張本人は、凄く眩しく見えて、かっこよかったんだ。
その音が忘れられなくて、その音を吹いてみたくて、僕は吹奏楽部に入部した。
もちろん家族がにはこっちがびっくりするぐらいびっくりされたけど、何て説明したかは・・・正直あんまり覚えてない。
多分、気持ちよかったんだと思うんだ。
音が、あんな綺麗に真っ直ぐ抜けていくなんて知らなかったし。
そりゃ練習はしんどいし休みないし厳しいし先生はそれはもう怖かったけど、やっぱり音が真っ直ぐ飛んだ時の快感は例えようが無くて。
でもやっぱり、あの音には到底中学3年間では追いつけなかった。
だから、高校まで続けようと思ったんだろう。
あの時声をかけてくれた人は実は部長で、まぁ色んな意味で凄い人だったけど、僕の面倒もよく見てくれて。
多分、あの人が部長じゃなかったら、続けてなかったかもね。
やっぱり恩義は感じてる。
だから、コンクール後の定期演奏会で退部しちゃった部長ともう一度部活をしたくて、部長の進学先の高校に進学した。
部長の音に更に近づけるように。
部長の高校の思い出に少しでも僕が残るように。


そこまではよかった。
そこまではよかったんだよ。
いや、そりゃさ、可能性が無いって訳じゃないんだけどまさかすぎて、一応青春真っ只中の男子高校生だから?やっぱね?


男子部員、僕だけって、ホント冗談キツいんだけど。
いや、現実だけどさ。






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