み ず か
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庭には夢が埋まってる
花びら一枚分の恋  [6/9]

「誰ですかっ」

 気の高ぶってしまっている声色だった。
痛々しい、強がっている声。

「どうしてそんなこと聞くの」
「駄目ですか?それくらい、教えてくれても……いいじゃないですか」

 嗚咽をこらえ、彼女はそう言い切った。
そして抑えきれなくなった声を零しながら泣き始める。
あやうくもらい泣きしそうになるところを何とかこらえ、小さく息を吐いた。
よりによってこんなときに、あんなやつが女の子を振っているところに立ち会うなんて。

「誰、ですか?」

 息もできないほど張り詰めた沈黙の後、須藤英知は彼女の問いに、はっきりとした口調で答えた。

「伊織」

 思っても見なかっただろうその言葉に、彼女は涙声で「は?」と漏らした。
それももっともだ、私も危うく声を出してしまいそうになるくらい驚いた。
でも私なんかより彼女の方が驚いたはず。
その証拠に、彼女は涙声のまま告白したときより少し低めのトーンで尋ねた。

「……その人って、須藤先輩の友達ですよね」
「うん」

 瞬間、突き刺さるような平手打ちの音が辺りに響く。

「信じらんない、馬鹿にしないでよね!最っ低!」

 そして一人分の走り去る音が遠ざかっていった。
残されたのは平手打ちと最低な男の称号をもらった須藤英知ひとり。
それとあまりの出来事についていけない私の頭。

 呆然としたまま動けずにいると、予想外にも彼の足音がこちらに近付いてきた。
慌ててどうしようかと周りを見渡すが、隠れる場所は見当たらない。
そんな私を笑うように、コスモスたちは相変わらずただただ風に揺れている。

 結局どうすることもできないまま、私は左頬を赤く染めた須藤英知と鉢合わせることになった。

「サヤカちゃん……」

 しゃがみこんだまま苦笑いを返す私に、彼は気まずそうな表情を見せた。

「もしかして、全部聞いてた?」
「……ごめん、そんなつもりなかったんだけど」

 彼はそれを聞き終えるより先に、私の方を向いてしゃがみこんだ。
そして頭を抱え、大きく長く溜め息をつく。

「なんかやだね、いろいろうまくいかなくて」

 どう答えていいのかわからず、じっと彼のうなだれる姿を見つめた。
焦げ茶の髪がコスモスと同じように、風に乗ってふわふわと揺れる。

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