小説 | ナノ



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「あんな、……12月の24日も25日も…仕事やねん。」

「……ですよね。そんな気はしてました。」

「ほんまにスマンな…。」

「いいえ、松田さんが悪い訳じゃないんですから謝らないでください。それに、私も……仕事だったりします。」

「……やっぱ、そうやよね。……それとな、24日と25日は北海道に行かなアカンくて…。」

「実は……、私は24日九州、25日は都内で深夜まで仕事なんです。」


12月の、いや1年の中で最大イベントと言っても過言ではないクリスマス。カップルはもちろん家族や友人達と大抵の人が宗教も関係無く楽しく過ごすであろう聖なる日。
だけどそれは全ての人間が思う様に過ごせる日とは限らない。イベントに捕らわれない人も居るだろうが、クリスマスを心待ちにしていたとしても外せない用事や仕事があったり、大切な人と一緒に過ごせない人だって居る。私達もそうである。
芸能界というのはイベント時期にスケジュールが偏る事が珍しくも何ともない世界で。ましてやそれが地方でのイベントに絡む事も少なくない訳で。季節はまだ冬前だけどクリスマスのスケジュールなんてものは既に決まっていた。夏から秋に季節が移り変わり、徐々に意識し始めるのは次に訪れる冬の予定。仕事が終わってから一緒にクリスマスを過ごせたらなんて淡い期待も当日のスケジュールが決まった瞬間あっけなく砕け散る。おまけに私は九州と都内での仕事、松田さんは北海道で仕事だなんてどう頑張っても会える筈が無い。
こんな風にイベントを一緒に過ごす事が出来なくても、松田さんには芸人という仕事を大切にして欲しいし、私も自分の仕事を頑張りたいと思う気持ちも確かな想いだけど、やはり胸のどこかではクリスマスに限らずイベントは恋人として一緒に過ごして思い出を積み重ねたいと思うのは、芸能人だとかそんな事以前に松田さんという人間を想う気持ちが大きい証拠。

頭では分かってるつもりでいても改めてクリスマスには一緒に過ごす事が出来ないと言う事実に、思わず小さな溜め息を溢してしまう。そんな私の様子さえも見逃さない松田さん。ハッと気付いた時には案の定困った様な表情を浮かべていた。
そんな顔をさせたくないのに、頭では分かってるのに、態度に出してしまった私はやっぱり子供だ。そしてやっぱり松田さんは大人で。ゆっくり伸びてきた手は私の頭をポンポンと優しく撫でてくれる。その温度と手の動き、そして私を見つめる表情は先程までとは違って穏やかななものだ。


「帰ってきたらお土産交換しよか。」

「お土産交換ですか?」

「うん。当日はプレゼント交換出来ひんけど、帰ったらお土産交換するんやーって思えばワクワクもするやろ?」

「はい。」

「約束やで。」

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