マジカル・パティシエール ショコラちゃん




※この作品は、エブリスタで投稿していた頃に参加した『三行から参加できる 超・妄想コンテスト 第43回 「チョコレート」が登場する物語を書こう』で優秀作品を取った作品となります。
現在、エブリスタを辞めて全作品を削除しましたが、この作品だけはどうにか残したい思い、今回この場に載せさせて頂きました。
即興で書いたということもあり、稚拙な文章ですがお楽しみ頂けたら幸いです。

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 甘姫智代子あまひめちよこが魔法少女になったのは今から約一年前だ。
 智代子自身も、中学一年生ながら冷静な現実主義リアリストであり、彼女が最初にその力を手に入れ時は信じることができず、三日三晩、真面に睡眠を取れなかったほどだ。
 アニメのようにマスコットがいる訳でも、道を指し示す先輩魔法少女がいる訳でもない。

 智代子は魔法少女になった事を家族や友人達に隠しながら、その能力を生かす術を模索するようになった。

「コンパクトでもなく、フリフリのロットでもなく泡立て器……それに、このコスチュームはどう見たってお菓子職人パティシエールよね」

 智代子がなった魔法少女と、アニメで取り上げられるような王道魔法少女には二つの大きな違いがある。

 一つ目は、自分の変身したいタイミングでタイムラグなく変身できるということだ。アニメでは変身に時間をかけたり長々と口上を述べたりする。智代子が小学生の頃に魔法少女アニメを親友に見せられた時に、「変身にこんなに時間をかけていたら敵に攻撃されてジ・エンドじゃない?」と言って半眼で睨まれたことがあったが、智代子は今でも時間の無駄は減らしたいと思っているので嬉しい仕様だった。

 二つ目は、智代子の能力が戦闘向きではないということだ。マジカルビームを撃てる訳でも、マジカルキックで敵を倒すこともできない。だが、この平和な世界で世界を脅かす悪の大魔王と戦う必要はない。

 唯一にして、智代子が魔法少女であると証明する能力。それは、チョコレートの効能を擬似的に使用、もしくは強化するというものだ。
 チョコレートの原料であるカカオには様々な効能が存在すると言われる。
 具体的には、動脈硬化や癌予防などの病気耐性、アレルギーの抑制、リラックス効果、認知症予防、アンチエイジング、ダイエット効果などである。
 その中でも実際に智代子が使うのは、リラックス効果を増幅させるという魔法だ。
 この世界には多くのストレスが存在する。ストレスを抱え、短気になった者たちをリラックスさせ助ける。それこそが智代子に与えられた能力の意味なのだろう。



「煌めけ☆カカオ・リフレッシュ!」

 智代子の放った〈リラックス効果増幅魔法〉は、今にも掴み合いになりそうな二人のサラリーマンに命中する。

「……どなたか存じませんが、ありがとうございます。私もどうかしていました」

「イライラが溜まっていても関係ない方に八つ当たりするのは、やっぱり間違っていますよね。せめて、お名前だけでもお聞かせ頂けないでしょうか」

 智代子の魔法によって仲裁された二人のサラリーマンは智代子に名前を尋ねる。

「〈マジカル・パティシエール〉の“ショコラ”です。すみません、急いでいるので」

 智代子はそう言い残すと全力疾走でその場を後にした。
 もちろん、智代子は速く移動できる魔法を使えない。智代子がもともと持っていた体力が、サラリーマン二人を振り切ったのだ。
 智代子は女子陸上部で3,000mを得意としていた体育会系少女である。バレンタインデーに男子にチョコをあげたことも一度だって無い女子力ゼロの少女だ。
 智代子がこの能力を得た理由は分からない。だが、人助けができるこの能力を智代子は気に入っていた。

「さて、今日もこれくらいでいいかな」

 純白のコック帽子とフリルの入ったミニスカートに大胆アレンジされたコックコート姿の少女から、制服姿の元の智代子へと戻る。
 空も茜色に染まり、学生服姿の少年少女たちが自宅へと帰っていく。
 智代子は母親と二人暮らし、帰ってくるのは22:00を回ったくらいだ。

 智代子はできるだけ母親と一緒に居たいと思っている。もちろん、寝落ちしてしまうことだってあるが、一人帰ってきて静かな部屋で簡単な食事を済ませるという侘しさを感じさせないために、智代子は二人の時間を作ろうと考えて居たのだ。

「折角だし、チョコレートを作ってみようかな?」

 智代子は自分の魔法を調べる内にチョコレートの効能に詳しくなった。
 智代子は疲れを癒すために美味しいチョコレートを作ろうと考えたのだ。

「カカオ70パーセントのチョコレートと、カカオ30パーセントのチョコレートをボウルに入れて♪ 湯煎した後にナッツを少々☆後はそのまま常温で♪」

 慣れた手つきで智代子は着々と準備を進める。チョコレートを作るのが上手くなっているのは魔法の力だけでは無いのかもしれない。

 チョコレートが完成した頃に母親が到着した。
 用意しておいた料理と共にチョコレートを出すと「美味しいね。ありがとう」と言って貰えた。

 誰かのために作るチョコレート。そのキーワードで智代子は思い出した。

 ――何故、魔法少女になったのか、を。



 智代子には人生の中で唯一、片思いしていた同級生がいた。
 天性の運動神経と知能。だが、それだけでなく、他人を気遣うことができるその少年に智代子は恋をしていたのだろう。

 智代子はバレンタインデーに向けて必死にチョコレートを作ろうとした。
 だが、智代子がチョコレートを渡す前に想い人は交通事故で急死してしまう。
 智代子は、想い人の死を嘆き、それと同時に彼にチョコレートをプレゼントできなかったことを後悔した。

 その後悔の雫――智代子の愛のカケラが少女に能力を与えた。
 二度と過ちを繰り返さないために、後悔しないために……。

 智代子は今も〈マジカル・パティシエール ショコラ〉として少しずつだが着実にチョコレートの効能を人々に渡している。
 チョコレートという想い人に届かなかった愛が、形となって世界を包み込んでいるのだ。

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