note



2016/10/18



人への捧げ物です。
お誕生日おめでとうございました!






手嶋くんはスクールカーストの上にいる男の子だ。
気さくで優しくて、いつも周りに誰かしらいる。
顔も悪くないし自転車部に所属してるから筋肉もちゃんとついてる。
緩く巻かれたパーマもよく似合ってて、いかにもモテそうな雰囲気を漂わせてる。
私の友達が何人かと一緒にカラオケに遊びに行ったとき、手嶋くんは歌が上手かったと褒めていた。
でもどこか隙がありそうで、取っ付きにくい感じはしない。
何だか完璧じゃないか。
恐らくスクールカーストが下の方の私との共通点を強いていえば、教室の座席が手嶋くんの後ろということくらいだろうか。
プリントを回す際に手が少しだけ触れ合ったり、消しゴムを忘れたとき貸して、と声をかけられるくらい。
そのくらいの関係なのに、私はちょっと可笑しいくらい彼のことが気になっていた。
だって、これは私しか知らない特権なのかなと思うんだけど。
彼が授業中ぼんやりと横を向いて考え事をしている姿はどこかアンニュイでとても色っぽいのだ。
伏せた睫毛が窓からの木漏れ日でキラッと瞬いて、半開きの唇がふっくらと潤んでいる。
そんな横顔をこっそりと盗み見るのは、ちょっぴりの優越感と多大なる幸福感を私にもたらした。
もちろん手嶋くんは私のことなど眼中に無いだろうから、これは私だけの秘密なのだけど。
けど、手嶋くんに恋しているたくさんの女の子の誰も、彼のこんな顔は知らないのだろう。
そして、彼が何を考えているのかも。
彼の背中越しに見えたノートには自転車のレースのことであろう難しい用語がずらっと並んでいて、ああ彼の恋する相手はこれなんだなと気付いた。
彼があんな横顔を見せるのは決まって、ノートにレースのことが書かれているときだったから。
だから、振り向いて欲しいとか少しでもこちらに気付いて欲しいとか、そんなことは思わないでもないけど。
それよりも彼がそれだけ情熱を注ぐものに、私も少しだけ力になりたいと思ってしまった。
あの日、放課後の誰もいない教室で彼の机にこっそりスポーツドリンクとパワーバーを差し入れたのはそんな純粋に応援する気持ち半分、いつも横顔を盗み見てしまってる罪悪感半分といったところだった。
けど、次の日の朝手嶋くんがおはようの後に「差し入れありがとう」と言ってきたときは心臓が口から飛び出るのではないかと思うくらい驚いた。
動揺して声も出ない私に彼は可笑しそうに笑い、「放課後ちょっといい?」と言われてしまったのでその日の私は彼の顔を見るどころか緊張で授業が全く耳に入らない有様だった。
放課後、誰もいない教室で今度は彼と2人きり。
どうしてこんなことになったのだろう。
もしかして差し入れが迷惑だったのだろうか、とオドオドと不安気な私に手嶋くんは大丈夫だよ、怒ってる訳じゃないからと微笑む。
「俺、実はずっと知ってたんだよね」
「え?」
「授業中、たまに俺のことずっと見てただろ?」
一瞬、呼吸を忘れてしまった。
「あ……」
「別に何かされてる訳じゃないからさ、いいんだけど、凄く……真剣に、見つめてくるからさ」
どうしよう、全部、知られちゃってたんだ。
差し入れだけじゃない、彼の横顔を盗み見ていたことも、
私が、彼を好きだってことも。
「ご、ごめん、なさい」
「謝ってほしいわけじゃなくてさ!」
思わず謝罪の言葉を口にすると彼は慌てて両手を振った。
「だから昨日のスポドリとか、もしかしたらって思って声かけたらビンゴだったってわけ」
嬉しかったよと彼は言ってくれたけど、こんなの迷惑だって分かりきってる。
一方的に想いを寄せられて、何も言わずに差し入れだけで置いていく女なんてストーカーみたいじゃないか。
自分のやっていたことを振り返って気持ち悪さに泣きたくなっていると手嶋くんはうーんと唸った。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
「……?」
「俺のこと応援してくれるならさ、直接言ってほしいなって」
「直接?」
「目だけで伝えるんじゃなくて……言葉で」
頑張れって言ってほしい。
一瞬揶揄われてるのかと思ったけど、手嶋くんは真面目な顔で、真剣な声でそう告げてきたから、何も言えなくなる。
「な、お願い」
「て、手嶋くん……」
「あ、手嶋じゃなくて純太がいいな」
「え!?」
「純太、頑張れ!って、簡単だろ?ほら!」
手嶋くんは簡単だと言うけどそんなはず無い。
今まで自分から手嶋くんに話しかけることも出来なかった人間なのに、いきなり彼を応援するだなんてハードルが高すぎる。
そうだ、私は彼にちゃんと言葉をかけたことなんてなかった。それなのに、良いのだろうか。
私が、手嶋くんのことを応援しても、好きでいても、良いのかな。
「お前の、声が聞きたい」
良いの、かも。
「が、頑張って……純太、くん」
「……!あぁ、ありがとう!」
その頬を少しだけ赤く染めて、白い歯が見えるくらい大きく口を開けて、緩く巻かれた髪を揺らして、純太くんは笑った。
頑張れそうだ!って私に真っ直ぐそう微笑んでくれる純太くんを見て、私はこの恋を諦めてなくて良いのかもしれない、なんて思ってしまった。



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