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2016/09/05



2作目から暗い話ですみません。
国見の独りよがりの話です。
死ネタはありませんのであしからず。




夢のそのままくり抜いて詰め込んだような、俺だけの世界。
太股がお腹にぴったりくっ付くくらいお腹を丸めないと入れないこの城は、鉄くさくて薄っぺらい壁で四方を窮屈に塞いでいる。
上のほうにポツンと小さく開いている四角い窓、その隙間から零れ落ちてくる光たちを見つめていた。
つま先に落ちる光たちを眺めていると段々と瞼が落っこちそうになる。ぐっと耐えて、ふあっと欠伸をひとつ。
壁にくっ付けた背中が刺すように冷たくて、腹だってきゅるきゅると鳴いてるけど膝を伸ばす気にはなれなくて、 いっそこのままここで餓死しちゃうのもありなんじゃなんかないかな、なんて。
そんなこと、ありえないのだけれど。
(だって、きっと俺のこと探してくれている)
ここを抜け出せば夢の城は崩れ果て、甘い時間は溶けて、あの人の笑顔も、消えてしまう。
そんな日が来ることはもうずっと前から分かっていたのに。
(けど、どうせ死んでしまう夢ならば自分で殺してあげたかった)
あの人を呼び出すなんてこと、中学の頃ですらしたことがなかったから柄にも無く心臓が煩かった。
いざ言葉にしようとすると、緊張で舌が縺れて、うまく喋れなかった。
もどかしくなって、喉が熱くなる。自分の不甲斐なさに涙が出そうだった。
けど、ふいに優しい感触が頭に被さってきて、顔を上げるとふっと穏やかな顔がそこにあった。
髪を撫でる指先が、暖かい。大丈夫だからと、柔らかい言葉が振ってくる。
彼の瞳は真っ直ぐで、こんな俺の拙い言葉を拾おうとしてくれる。
どうしようもなく、嬉しくて、苦しくて、嗚呼、
「好きだなぁ」
想いが、零れた。

いつの間にか窓から差し込む光が弱々しくなっていて、夜がすぐそこまで来てることを知らせてくれた。
どのくらいこうしていたのだろう。丸めた背中がしくしくと痛い。悴んだ指先に息を吐きかけても震えは止まらなくて、赤くなった鼻をすんと啜った。
目の前にあるこの壁を少し押すだけ、それだけできっとこの寒さも痛みもさよならできる。
それでも、俺は最後の最期であの人を願ってしまっていた。
本当はあの時、あの言葉を口にした瞬間、死んでしまいたかった。
初めて俺は鼓動をやめた。息をすることを、やめた。
だって俺の告白を聞いてしまったあの人の顔を見ることがあまりにも怖くて。
あの優しげな顔が歪むことが、耐えられなくて。
そして、逃げ出した。
呆然とする彼に背を向けて、一目散に走って、気づいたらこの城へと入り込んでいた。
彼に見つけてほしくて、見つけてほしくなくて、殺してほしくて、最期にしてほしくなくて、この城を壊してほしくて、こんな場所にひっそりと隠れている俺はなんて滑稽なんだろう。
この想いも同じように無様だ。ただ死ぬのを待つだけだ。
それでも、最期に願えるなら。
(貴方の手で殺される夢を見てもいいですか、岩泉さん)

「隠れんぼは終わりだ、国見」

ああ、見つかっちゃったな。
ギィ、と錆付いた音が、この城の終わりを告げた。
開かれた扉の隙間から、夕陽が差し込んできて夢の正体を照らす。
ハンガーから吊るされたジャージ、綺麗に畳まれたタオル、隅に転がってる冷却スプレー、端が折れてくたくたになってる日誌。
詰め込まれたそれらから岩泉さんの匂いがぶわり、開け放たれたそこから流れ出す。
四角くくり抜かれた俺の城は結局10分と持たず崩壊してしまった。
そして俺の淡い恋とやらは、4年と持たなかった。
「ロッカーに隠れるやつがあるか」
ごめんなさい。
「お陰で随分探しちまったじゃねえか」
俺って馬鹿ですよね。
初めて出会った日から今日まで、ずっと器用に隠し通してきたこの恋を、俺は自ら手折った。
後少し我慢出来たら、岩泉さんは卒業して、学校からも体育館からもこのロッカーからも、消えてしまうのに。
そしたら俺の気持ちなんてもの、胸の底で燻ったままじわじわと溶けていったかもしれないのに。
けど、なんて幸せな恋なんだろう。
この人と一緒に俺の元から去っていけるなんて。残された俺に、きっと足跡一つ残さないまま、消えてしまえるなんて。
「……なあ、国見。さっきの」
「岩泉さん、お願いです」
この恋を、殺してくれませんか。



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