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2014/05/18



本誌キャラネタバレ。
隼人くん呼び推し。




コンコンと控えめなノックがこの部屋に響くのは金曜日の夜10時過ぎと決まっている。
誰、と聞くまでもなくどうぞと言うとゆっくりとドアノブが周り、開いたドアの隙間から廊下の暗闇に溶けてしまいそうな黒髪がちらりの入り込んできた。
「おいで」
扉の隙間で揺れる身体にそう声をかけると途端にそれは中へと飛びんで来て、僕の身体にドンッとぶつかってくる。
「泉田さん」
僕の腰に手を回しながら普段の彼からは考えられないほど静かな声が漏れた。
「一緒に寝ましょう、泉田さん」
何度同じ夜を過ごしても、彼は必ずそう僕に問いかけてくる。
「いいよ、悠人」
決まって同じ答えを返せば、彼はほうっと安心したように息を吐き出すのだ。

シーツの中へと潜り込んだ悠人は早く早くとせがむような目線を僕に投げかける。
追いかけるように身体を滑り込ませ、彼の頭を胸元へ寄せてやると悠人は嬉しそうに目を細めた。
「やっぱ泉田さんの身体は暖かくて安心しますね」
「新開さんみたいにか?」
「……そう、です」
悠人は少しだけ、眉を潜めた。
ーー眠れないんです、泉田さん。
目の下にくっきりとした影を作って僕の元へ悠人がやってきたのは彼が入部して2ヶ月ほど過ぎた辺りだった。
「よく眠れなくなることがあっていつもなら両親とか、隼人くんがいるなら隼人くんと一緒に寝てもらってたんです。でもガキじゃあるまいし一人じゃ寝れないだなんて言えなくて……」
切羽詰まった彼の顔に一緒に寝る人は誰でも良いのか?と聞くと隼人くんが1番安心しましたと答えた。
「泉田さんって隼人くんと似てるし、毎日じゃなくて、その、週に1回だけでもいいんです……お願いしちゃダメですか?」
瞳を揺らしながら祈るようにそう聞いてくる後輩に、首を横に振れるわけがなかった。
以来悠人は金曜日に僕の部屋にひっそりと訪れ、2人で狭いシングルベッドで眠りにつき朝早く帰っていくという生活を繰り返していた。
僕が目を覚ました時悠人の姿はいつも消えていて、朝食を取る為に食堂に向えばいつもの柔らかな顔でおはようございますと何事もなかったかのように悠人が微笑むので毎回あれは夢だったのかと思うが、悠人は金曜日の夜に必ず僕の元へと現実としてやってきた。
そして今日も、僕たちはこの狭いシングルベッドで窮屈に寄り添う。
「泉田さんの心臓の音、俺好きです」
ぴったりと頬を胸にくっ付けて目を閉じるその姿は彼の兄に似て端正な顔立ちと合間ってとても美しく僕の目に映る。
けど彼の中身は新開さんとは似ても似つかない。
新開さんは例え眠れない夜がこようとも決して人にそれを告げはしなかっだろう。
彼は人に好かれ人に囲まれる中、常に孤独を選ぶ人だった。
「泉田さん?」
幼い声に意識が浮上する、つい考え込んでしまっていたようだ。
「ん、なんだい悠人」
「……隼人くんのこと、考えていたんですか」
そうだ、こういうところも似ていない。
この弟はどうにも鋭い、特に新開さんのことに関しては。
「ああ、よく分かったな」
「……隼人くんのこと考えてるときの泉田さん、分かりやすいから」
「そうかな、悠人のことも考えてたんだけどな」
「え?」
「新開さんと悠人は似てないなって、考えててた」
「……そっ、か」
悠人はめをぎゅっと瞑って何かに耐えるように震えた後おやすみなさい、と布団を頭まで被ってしまった。
苦しいだろうから顔だけでも出すように声をかけたが、悠人が布団から顔を出すことはなかった。

「……、……っ」
途切れ途切れに聴こえてくる小さな音たちが鼓膜が揺らして、いつの間にか睡魔に沈んでいた思考をゆっくりと引き上げる。
「……?」
隣にあった温もりがないことを感じ瞼を押し上げると悠人の背中をぼんやりと滲む視界が捉えた。
悠人は上半身を起き上がらせて蹲るようにベッドの上で毛布ごと膝を抱えていた。
悠人、そう声にするよりも早く彼の声が部屋に響く。
「……好きです、ごめなんなさ、好きです……」
小さく、震える声の意味が分からないほど僕も子供ではない。
驚いて瞳を開くと、漸く彼の手のひらが僕の右手を掴んでいることに気付いた。
「泉田さん……好き、です」
決定的な言葉に思わず、彼の手を握り返してしまった。
「悠人」
「っ……!?」
勢い良く振り返った彼の目には案の定涙をいっぱいに溜め込んでいた。
「い、泉田さ、起きて……」
慌ててベッドから降りて逃げようとする悠人の腕を掴まえて無理矢理に引き寄せれば、その細い身体は簡単に僕の元へ倒れてきた。
後ろから抱きしめるように抑えるとバタバタと抵抗していた悠人が顔をくしゃくしゃに歪ませてはぁ、と震えた息を吐いた。
「……ずるいですよ、泉田さん。寝たフリなんて……」
「いや、寝ていたんだが悠人の声が聴こえてきて……」
「いつもは起きないくせに」
「は、」
「……ごめんなさい、嘘だったんです」
悠人は観念したように少しずつ話出した。
「夜眠れなくなるのは本当、昔は両親や隼人くんと一緒に寝て貰ってたのも本当、隼人くんと寝るのが1番安心したのも本当……けど、今は誰かと一緒じゃないと眠れないなんてことなくて、泉田さんと隼人くんが似てるだなんて、思ったことなかった……」
「ならどうして、」
「分かるでしょ?好きな人の傍で眠りたいって、恋をしてる人なら誰だって思うじゃないですか。それが報われないなら尚更……」
「っ!?」
「泉田さんが隼人くんのことが好きなのは知ってます、けど俺なら、身体も性格も似てないかもしれないけど顔だけなら隼人くんそっくりだから……だから」
「ちょ、ちょっと待て!!」
悠人の肩を掴んで身体を反転させる。
驚いて目を丸くさせる彼以上に僕が驚いていたし、混乱していた。
「僕がいつ新開さんを好きだなんて言ったんだ!」
「え!」
「新開さんのことは確かに好きだがそれは尊敬しているという意味でだ、恋愛感情じゃない」
「だ、だって、泉田さん隼人くんのこと考えてるときあんなに嬉しそうな顔……」
「言っただろ、新開さんのことだけじゃないって」
「っ、」
「悠人、僕は新開さんと似ていないお前のことをずっと考えてたよ」
「は、え……なっ、に」
「好きだよ、僕だって悠人が好きだ」
混乱している彼を抱き寄せて、痛いほどに両腕に力を込める。
その小さな身体を抱き潰してしまいそうなほど、胸の奥の想いが溢れてきた。
「う、嘘だよ、嘘、だって、俺ずっと、」
状況を飲み込めないのか支離滅裂な言葉を繰り返す悠人の背中をあやすように撫でる。
「まあ、混乱する気持ちは分かるよ。僕だってずっと悠人は新開さんが好きだと思ってたからね」
「はあ!?」
「だって悠人は最初に僕を新開さんの代わりにしたじゃないか」
「そ、そうだけどあれは嘘で…。」
「うん、分かってる」
ずっと好きって言ってくれたんだもんな。
彼が僕が眠る間に囁き続けていた言葉を思ってそう返せば、悠人は唇を噛んで、ぐちゃぐちゃな顔で泉田さん、と涙と一緒に僕の名前を繰り返し溢していく。
「泉田さん、泉田さん、泉田さん……」
「うん」
「好きです、好きで好きで、たまらないんです……」
「ああ、僕もだよ」
胸の中で必死に愛を吐き出すその可愛い身体を閉じ込めて、これからはずっと、彼は安らかに眠れるだろうと瞼を擦った。



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