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2014/05/18



彼の好物可愛すぎるでしょ事件




ぶわっと彼の切れ長の目が開かれて、ぶつりと噛みちぎられた黄色いそれが箸の間で揺れるのを、私も彼と同じように丸くした瞳で見ていた。
「お、美味しくなかった……?」
恐る恐る危惧してた最悪の事態をドキドキと心臓を跳ねさせながら聞くと、今泉くんはハッとして口を一生懸命動かしてどうにか咀嚼して飲み込むと今度は頭を横にブンブン振ってそんなことないと言ってくれた。
「大丈夫だよ、不味いならそう言ってくれていいんだよう」
「いや、初めてだからビックリしたんだ」
「初めて?」
「砂糖……」
「ああ!」
彼があんなに驚いた理由がやっと分かった。
彼の中に今飲み込まれたそれ、卵焼きは我が家では砂糖をたくさん入れて甘く作っている。
もちろん他の家庭ではあまり砂糖を入れずに卵そのままの味を活かして作るところが多いのは知っていたけど、ついいつもの癖で砂糖たっぷりの甘い卵焼きを作ってしまった。
人にお弁当を作るなんて経験が無かったし今泉くんの好きな食べ物も分からなくて結局いつも自分の食べてるものを詰めてしまったお弁当。
どうしよう失敗しちゃったなって少し落ち込んでると、隣からご馳走様って声が静かに聞こえてきた。
「えっ、もう食べ終わったの?」
「ああ、美味かったからすぐに食べちまった」
「……今泉くん優しいね」
きっと私に気を使って全部食べてくれたのだろう。
本当に今泉くんは優しい。
少しでも彼女らしいことがしたくて今泉くんのお弁当を作りたいって強請ったときも嫌な顔ひとつせず頷いてくれたし、こうやって本当は自転車部の人達と話したいであろうお昼休みを私と一緒に過ごしてくれている。
なのに私、今泉くんに何もしてあげれてない。
無理させてばかりだ。
「い、今泉くん!好きな食べ物教えて……今度はもっと美味しいお弁当作ってくるから!」
ほんのちょっとでいいからお礼をしたくて彼にそう勢い良く聞いたものの、もういらないって断られてしまうかもって可能性に気付いて私の頬がひくりと痙攣する。
そうだよ、今日のお弁当失敗しちゃったもん。
もう食べたくないって思われても仕方ないよ。
「卵焼き」
「……え?」
「さっきの卵焼きがまた食べたい」
今泉くんがぺろりと舌で自分の唇を舐めながら言った言葉があまりにも意外すぎて、私はええっと声を上げた。
「そんな無理しないでいいんだよ今泉くん!ごめんね気を使わせちゃって!」
「別にそんなつもりじゃない」
「で、でも卵焼きって……」
「すげー甘くて、美味かった」
今泉くんはふっと目を緩ませて私の頭にその綺麗な手を乗せる。
「あれなら毎日だって食べたい」
「〜〜っ!」
今泉くん、そんな言葉は反則ですよ。
彼のファンクラブの子たちが今の表情と声を聞いてたら間違いなく倒れてたと思う。
てゆうか、私も倒れそう。
「いいい今泉くんがそう言うなら本当に毎日作っちゃうよ……」
「ん、これから昼休みが楽しみだな」
「嘘じゃないよ!ガチだよ!いいの?」
「ああ」
「……飽きちゃっても作るからね?」
まるで脅迫みたいにそう聞くと、今泉くんはうーんと唸った後、それはないなと断言した。
「ど、どうして?」
自信有り気な彼の顔に自信のない私の言葉が吹きかかる。
それをくすぐったそうに今泉くんは笑って、こう答えた。
「さっきの卵焼きで、胃袋掴まれちまったから」



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