note



2014/05/05



まだキャラもよく分かっていないのに軽率に書きました。
悠人の舞台にさせられる銅橋。女装表現注意。




ぺたり、腹に置かれた手が騒いでいた。
セーラー服なんて見飽きた風景を鮮やかするのは、それを纏う身体のせいだ。
くつくつと喉を揺らすその姿を、ありふれた光景を、俺はありえる筈のない角度から眺める。
悠人越しに見る天井はいつだって同じ染みを垂らしていた。
ツルリと、指を滑るような赤いスカーフを括って、悠人は俺の上へ侵入する。
俺の身体を跨ぐには幅の足りない股を必死で開いて、薄いタイツに包まれたそれを押し付ける。
くしゃくしゃに皺のついてしまったプリーツスカートを大事に箪笥の奥にしまい込んでいたのを知っていたせいで、変に居心地が悪い。
「先輩、」
ううん、銅橋さん。
黒々とした細い毛束を揺らして、その隙間から覗く瞳はあまりにも俺を映すことで必死で、気を抜けば滑って落ちてしまいそうだ。
「これさ、似合うかな」
硬い頬に塗られたチークをなぞって、一番卑猥に見えるだろうを顔を悠人は作ってみせるが、ピクピクと鳴る口の端も下がってしまった眉も、穴だらけの完璧を彼は描いている。
それは悠人にとってどうでも良いことなんだろう。
欲しい言葉はいつだって同じだった。
「似合わねぇな」
吐き出した言葉を胸で受け止めて、悠人はそれらしく跳ねた睫毛を伏せる。
「知ってる」
いつもならここで幕が引く。
タイツに包まれた太腿が軽く俺を撫でて、脱ぎ捨てるかのように俺の前から彼は退ける。
それで彼は背を向ければ、俺はもう何も言うことは許されなかった。
けれども、彼の太腿は憮然としてそこにあって、腹に乗せられた手のひらだけが熱く、濁っていた。
「銅橋さん、」
彼の顔が、うんと近くにあった。
短い身体を伸ばして、鼻の先まで寄せたその表情は人形のように透き通り、感情を映さない。
「俺ってなんなんだろうね」
するりと滑るような声はきっと俺に向けられてはいない。
こいつはそれが惨めに床に転がって溶けるのを眺めていたいだけなんだ、きっと。
(似ている、んだろうな)
焦げたような髪を緩く跳ねさせて、淡く笑う顔。
かつて最速と言われた男の甘すぎる唇を思い出す。
けどその男のどれもが、目の前のこいつと重ねるには不釣り合いだ。
比べるんじゃ、ねえよ。
「悠人」
何度も読んだ名を、始めて口にする。
「え……」
震えた声が、耳に沈む。
悠人はいつも俺を通して色づいた自分を見ていた。
だから、鏡が口を開いたことに驚いて、俺の上から逃げようとした。
その腰を掴んで、無理矢理にまた、上がらせる。
悲鳴のように彼の汗が散った。
「ちょ、」
「そういうのは、杞憂っていうんだよ」
端を引けば、思った通りにスカーフは指を滑って舞台から飛び降りた。
残された少女の残骸を一枚ずつ剥いでいく。
彼の髪が染み込んだようなセーラー、皺のついたプリーツスカート、守るにはきっと薄すぎただろうタイツ、頑なな顔を隠したチーク。
剥き出しになった悠人は、薄っぺらい身体をぶら下げて、まだ俺に跨っていた。
そうだよ全部壊されたって、お前はここにいる。
両腕にやっと収まった大きくて小さな身体が、戸惑っている。
彼の瞳はやっぱり落っこちそうなほど、揺らいでいた。
触れた背中はしなやかな筋肉に囲まれていた。
決して優しい感触をもたらさない、こいつのすべて。
けど知らないほど、その肌はこの手に馴染んでいく。
「そんで、俺がここにいんのがお前のいう愛ってやつなんだろ」
くだらない舞踏会だったんだ。不釣り合いなんだ、何より俺に。
それでも俺がここにいた理由を、こいつは知るべきだ。
「俺は、これが良いんだよ」
無骨な肩を、飲み込むように掴んで胸へと引き寄せる。
「王子様にしてくれよ、悠人」
彼の瞳から流れる大粒の涙が、エンドロールにすべて融けてしまうように。
この身体に、全部。

君を待つロンド



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