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2014/04/19



火神くんの旦那力すごいですよね。
風邪ネタが好きです。
元気になーれ!




「ごめんね、火神くん」
曇り硝子みたいな視界の向こう、チラチラと揺れる赤い髪にそう呟くと、大きな背中がくるりと回って、険しい顔をした火神くんの顔が私をじいっと覗き込んできた。
「気にすんな、つかまずは寝ろ!風邪治すのが先だ」
「でも、今日せっかくのお休みなのに……」
部活で忙しい火神くんの滅多にないお休み。
ずっと前からこの日は一緒に遊ぼうって約束をして、色んな計画を立てた。
気になっていた映画を見て、美味しいって噂のカフェでお茶して、最近出来たショッピングモールを周って、帰ってきたら一緒にご飯を作る。
ありきたりなデートプラン。
だけど考えただけで楽しくて、手帳を開いてはハートのシールを貼ったその日付を指でなぞっては二人で遊ぶ姿を想像していた。
デートの為に新しい服も買ったし、髪も少し切ってみた。
浮ついている私を見て火神くんは笑っていたけど、俺も楽しみだって言ってくれてすごく嬉しかった。
なのに、どうして今日に限って熱を出しちゃうのかな。
ごめんね火神くん。デート、行けなくなっちゃったの。熱が出ちゃって、ごめんなさい。
電話口で泣く私を心配して火神くんはすぐに私の家まで来てくれた。
そして今、出掛けていていない両親の代わりにせっせと世話を焼いてくれている。
「お粥作ったけど食えるか?」
「ん……大丈夫」
起き上がる私の背中を彼の大きな手が支えてくれる。
本当なら、この手を繋いで街に繰り出していた筈なのに。
ぐっと泣きたい気持ちを堪えていただきますと呟く。
料理上手な火神くんの作るお粥はお粥なのにとても美味しそうで、ふわっと舞った湯気に思わず喉が鳴る。
ふうっと息をかけて少し冷ましてから口に放り込む。胸がムカムカして何も食べたくない気分だったのに、火神くんのお粥は何だかすごく暖かくて優しくて、ぐいぐい食べれちゃう。
「美味しい、すごく美味しいよ……ずっと食べてたいくらい」
「お粥くらいで大げさだな、また元気になったら何でも好きなもん作ってやるよ」
火神くんはくしゃっと笑って私の頭を撫でる。
その瞬間、私の目からぽろりと涙が落っこちて、お粥の中へ飛び込んでいった。
「あ、あれ……?」
おかしいな、そう言って笑おうとしても涙は次から次へと溢れてきてお粥にダイブしていく。
もうやめて、やめてよって私は目を瞑って涙たちにお願いしたのに、勝手に零れていくそれは私の手のひらじゃ抑えきれない。
どうして、どうしてこんな、私、
「おい!」
暖かい、体温の感触。
火神くんの手が、私の手に寄り添うように重なる。
滲む視界の中で必死に火神くんを探すと、彼の困ったような、怒ったような顔が目の前に映り込んで来た。
「あーー……大丈夫だから、泣くなよ」
太い親指で目尻を擦られて、涙たちが一斉に逃げ出していく。
「また元気になったら遊べばいいだけだろ?」
「けど、火神くん部活ですごい忙しいのに」
「別に平気だって!あれだったらホラ、俺ん家泊まれば別に部活あっても大丈夫だろ?あ、それだと遊びに行けねぇけど……」
「と、泊まってもいいの!?」
驚いて大声でそう聞くと、火神くんはきょとんとした後ふはっと緩んだ笑顔で「当たり前だろ!」でまた私の頭を撫でた。
「う、嬉しい……」
「いつでも来いよ、お前なら歓迎するぜ」
「本当に?」
「ああ、つかなんでそんなに遠慮すんだよ」
「だって……」
だって、自信がないの。
火神くんは知らないだろうけど、君ってすごくモテる男の子なんだよ。
この前も体育館でこっそり火神くんのこと見てる女の子見つけちゃった。
綺麗な子だった。
みんな火神くんはバスケ一筋だからって諦めたように言う。私だってそう思ってた。
だから、火神くんが私の告白に頷いたときすごく嬉しかったの。
でも、火神くんは知れば知るほどすごい人で、スポーツだって料理だって何でもこなしちゃう。
私は後を追いかけるのが精一杯で、はやく隣で並んで歩きたくて仕方なかった。
だから、今日デートしようって言ってくれて、本当に、本当に幸せだったの。
火神くんの心はバスケのものでも、部活をしていない休日だけは私のものになってくれるような、そんな気がしてた。
でも、私はそんな大切な日に風邪を引いちゃうような大馬鹿で、さらに火神くんに世話までさせちゃって、追いかけるどころか足を引っ張っちゃってる。
私、わからないの。
こんな私のこと、火神くんは好きでいてくれるのかなって。
「またくだらねえこと考えてんだろ?」
ペチッと彼の手のひらが私のおでこを軽く叩く。
「なあ、お前何がそんなに不安なんだよ」
「ふ、不安っていうか、その、か、火神くんは……私のこと、好きかなって……」
口から溢れた言葉を隠すようにぎゅっと唇を噛んで俯く。
自分で聞いたくせに、答えを聞くのが怖い。
じっとそのまま待っていると、はぁーっと彼のため息が降ってきて、びくりと肩が震える。
けど、次の瞬間には重なっていた手をさらに強く握られた。
「照れ屋なところが好きだ」
「え……?」
「俺が何か言うとすぐ赤くなって照れるところが好きだ」
「あ、あの、」
「浮かれやすいところが好きだ。はしゃいで子供っぽいところを見てるのが楽しい」
「っ、」
「一生懸命なところが好きだ。諦めないで必死で頑張るところ、俺は尊敬してる」
「火神、くん」
「俺を見ると嬉しそうに目を細めるところ、たまらなく好きだ」
「火神くん……」
「俺のことが好きだって全身で教えてくれるの、すげー嬉しいし幸せだし、好きだ」
「火神くん、もういいよ……」
私の顔は今茹でダコのように真っ赤に染まっているだろう。身体中が燃えるように熱いのが分かる。きっと、熱のせいじゃない。
「俺がどれだけお前のこと好きか分かった?」
覗き込んでくる顔になんとか頷くのが精一杯で、顔があげられない。
だって、嬉しすぎる。
「だから泣くなって」
また流れてきた涙を火神くんの親指が浚っていく。くすぐったくて笑うとやっと笑ったなって火神くんが嬉しそうに私の頬を両手で包む。
火神くんの優しくて、暖かくて大好きな手のひら。
私を支えて、導いてくれる手。
今度は、私から握ってもいいだろうか。
火神くんがしてくれたみたいに彼の手を覆うように私の手を重ねる。
「次の休みは思いっきり遊ぼうな」
返事の代わりに微笑めば、彼の唇が私のそれに重なった。

てのひらのまほう



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