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2014/04/02



荒北誕生日記念だけど全然関係ない話R18注意




最初に見たのは曇り硝子のような瞳だ、そしてだらしなく笑みを浮かべた唇。
人を、少なくとも俺を苛立たせるには充分だった。
もっと腹が立ったのは締まりのない顔で易々と勝利を浚ってしまうところだ。
奴だって努力をしていないわけじゃないだろう。
それでも、爽やかな顔をして何事もこなしてしまう所謂天才の部類に入る男を、すんなりと受け入れろという方が無理な話だった。

「や、すとも」
上手く回らない舌が彼の赤く熟れた唇からべろりと覗いている。
うっすらと浮き出る鎖骨に歯を立てて、新開の飛びそうな意識を無理矢理連れ戻す。
喉から声にならない声を絞り上げ、痛みに顔を歪めながら肩を震わせる彼の目は潤み、頬は赤らんでいる。
乱れた髪をぐしゃりと撫でれば、新開は目を瞑って心地良さそうに受け入れる。
その隙をついて奥へと腰を進めればひぐっ、と変な声を上げて新開は眉間に皺を寄せた。
「は、あ……靖友、もう少し、ゆっく、り」
「ンなちんたらしてられっかよ」
「や、さしく、頼むよ……っ、」
余裕を吐きだそうとする声を遮るように腰を振れば俺の背中に縋る彼の手が強く、皮膚を抉った。

壁に押し付けた身体は、思ったよりもずっと薄っぺらい気がして拍子抜けした。
まるで奴の心の軽さをそのまま表しているようで、いけ好かないことばかり詰まったその胸ぐらを掴んで引き寄せても、彼の目は一瞬見開かれただけで、またすぐにゆるりと平穏を取り戻す。
どうした?靖友、なんて軽やかな声を響かせる。
俺と奴しかいない部室で、壁に追い詰められて胸ぐら掴まれてるっていうのに。
次の瞬間に自分の顔が目の前の拳にぶっ飛ばれたっておかしくない状況でこいつは緩やかな笑みを携えたまま。
例え内心は焦っているかもしれないとしても、だ。
(……理不尽、なんだろうナ)
奴には理由がない。
俺から責められる理由も、暴力を受ける理由も、嫌われる理由だって本当はないはずだ。
けど、何から何まで全部そのだらしねぇ顔に突っ込んで隠してんじゃねえよ。
泣きたいときに泣きもしねぇ、辛いときに辛いとも言えねぇで笑ってるなんざ可笑しいだろ、なぁ、笑うなよ。
その瞳がどうすれば揺らぐのか知りたくて、まずはふやけたその唇を塞いだ。

「っあ、ふ、あぁ、や、」
女みてぇな嬌声が鼓膜を震わせる。
歯を噛み締めて堪えようとしないように突っ込んだ指はもう彼の唾液で塗れている。
ずるりと引き抜けば銀の糸が新開の首筋を汚したので綺麗に舐めとってやる。
「ん、んぅ……」
小さな刺激すら彼にとってはひどく辛い拷問のようで、必死に眉間に皺を寄せて耐えている。
大きく開かれた太腿がぴくぴくと痙攣して、限界が近いことを知らせている。
焦点の合わない目が俺を探して、頬に手が伸びる。
「俺、も、ヤバい……」
「ン、俺も」
震える腰を抱いてやると、新開は安堵したようにほっと顔を綻ばせた。

「靖友」
弧を描いた唇から零れた声はひどくおぼろげだった。
聴いたことのないその音に奴の顔を見れば、下手くそな笑顔を貼りつけた笑顔を貼りつけた新開が立ち尽くしていた。
「……靖友」
壊れた口は俺の名を繰り返し、膝を折ってその場にしゃがみ込むその背中の小ささに俺は呆気に取られていた。
さっきまで、ずっと今までこいつが必死で繕っていた余裕は掻き消え、そこにあるのは弱々しいその背中ひとつだ。
「冗談、なら」
怯えるような声を辛うじて拾い、はっと我に返って丸まった身体に耳を寄せる。
俯いた顔は見えなくても、そこに俺の知らない顔があることくらいは理解できた。
「冗談なら、止めてほしいんだ」
今度ははっきりとした声が届く。
彼の太腿に押し付けられた拳が戦慄いている。
「俺は、俺はずっと靖友が好きだったんだ」
だから、こんなのは我慢できない。
例えお前にとって遊びだったとしても、キスされて、正気でいろってほうが無理なんだ。
徐々に輪郭を帯びてきた声が告白だと気付いたときには、奴はもう顔を上げていた。
諦めたような、泣きそうな笑顔がそこにはあった。
(ケド、嘘じゃねェ)
俺はいつの間にか笑っていた。
奴の口元が移ってしまったかのように、笑みを浮かべていた。
「上等じゃねぇか」
一度喰らったのだから、最後まで欠片も残さずに飲み込んでやるよ。
俺は再びその泣き顔を塞いだ。
彼の目は見開かれたまま、平穏が戻ることはなかった。

「……死ぬかと思った」
ぐったりという表現がぴったりの身体はうつ伏せのままベンチから動こうとしない。
受け入れるのは当然ながら初めてであった新開には少しばかり無理をさせたが謝らない。
喰われるのを望んだのはあっちのほうだ。
「ウルセーなこれでも手加減してやったんだケドォ?」
「あれで!?うわ、俺荒北と付き合える気しない……」
「じゃあ止める?」
「や、やめるわけないだろ!」
「なら少しは我慢しなヨ、にこにこチャン」
「……にこにこチャン?」
疑問符を頭に浮かべる新開を横目にまあそれも今日で最後かと独りごちる。
彼は知らなくて良い話だ。
(つーか、あの意味わかんねェ苛立ちも今思えば……ねぇ)
「靖友?」
考え込む頭に彼の声が入り込んできて、思考を放棄する。
「何でもネーヨ、てか喉渇いた!新開なんか持ってねぇ?」
「え、」
「別に飲めれば何でも良いからサ」
「……鞄の中」
そう言って新開はさっきまで気だるそうにしていた身体を勢い良く起き上げてシャワー室へと駆け込んでいった。
「なんだヨあいつ」
不思議に思いつつ手を突っ込んだ彼の鞄に忍のぶ黒色の炭酸を見つけて、俺はまた口を三日月に歪ませた。

恋する唇



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