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2014/03/27



太ってるのを気にする隼子ちゃんって可愛い




靖友の私に向ける刺々しい言葉たちをランキングにしたら、一位は断トツ、間違いなく「デブ」だ。
靖友が目で追う女の子は決まって細い手足をぶら下げた折れちゃいそうな腰の女の子。
こっそり彼のベッドの下から引っ張り出したセクシーな雑誌に住んでいた女の子たちもみんなスレンダーな白い身体に面積の小さな下着を身に着けていた。
ほっそりとした首筋が色っぽくて、ああ靖友はこういう子が好きなんだなってことを嫌でも私は覚えてしまった。
鏡の前に立つ私の、突き出た胸はいくらブラジャーに押し込んでも引っ込んではくれないし、お腹もあんなにくびれてなんかいない。寸胴、なんだと思う。
お尻だって大きいし、どこもかしこもサイズの大きなカーディガンで隠せるような膨らみじゃない。
ちぐはぐで、凸凹している身体は私をよく表してて、お似合いなんだろう。
せめて雑誌の中で小首を傾げて微笑んでる女の子みたいに可愛く笑えたのなら、少しは彼の言葉も柔らかくなったのだろうか。

空き教室の椅子はちょっと古くて歪んでるけど、懐かしい匂いがして嫌いじゃない。
食べ終わったお弁当箱をランチマットで包んでいるとカツンと小さな音がした。
ほらヨ、という言葉と一緒に机の上を転がったピンク色の包装紙は、私が好きでよく買っているイチゴ味のキャンディだ。
その球体がゆらゆらと揺れる姿を追う目を少し上に上げれば、椅子の背に跨って座っている靖友が頬杖をついていた。
「やる」
そう短く発せられた言葉に私はありがとうとお礼を言いつつ飴玉を摘まんで、ふと思う。
かさり、と手の中で鳴るそれはこんな小さいのにうんと甘くて、きっと私をまたぶくぶくと太らせていく。
目の前の靖友はぼうっと片手で携帯を弄っている、その腕はやっぱり細くて。
私は思わず両手で飴玉を突き出していらない、と言ってしまっていた。
「はあ?なんで」
携帯から離された目は不満げに歪んでいたけど、私はごめんと謝ることしかできない。
「お前これ好きだったよな?」
彼の長い指が飴玉を弾いて、手のひらを抜け出した球体はカツンとまた机の上に転がる。
ゆらゆら、揺れるそれに合わせて私の声もまた震える。
ごめん、折角靖友がくれたのに、ごめんね。
でも私これ以上靖友に嫌われたくないんだ。
好かれてもないかもしれないけど、靖友が隣りに置いてくれるってことは、まだ私の嫌じゃないと思うの。
だから嫌われないうちに、好きになってもらいたい。
靖友の彼女だって胸を張れるくらいになりたい。
だからチョコレートもケーキも靖友のくれたキャンディも、みんなみんな我慢する。
細い腰に手をあてて可愛く微笑めば、きっと靖友だって笑ってくれるでしょ?
「バッカじゃねぇの?」
歯茎を剥き出しにして、靖友が眉を潜める。
咄嗟に出そうになったごめんねは言葉にならなくて、ごくんと喉を鳴らす。
靖友はそんな私を見て溜息を吐いたかと思うとガッと腕を伸ばして膝の上で丸めていた私の手を引っ張り出してぎゅっと握った。私の、震える手。
「こんな小せぇ手しといて、痩せたら消えちまうんじゃねぇの?」
「っ、だい、じょうぶ」
「そんな面して大丈夫じゃねぇヨこのおバカちゃん」
握られていた手を離され、今度は鼻を摘ままれる。
「ふがっ」
「色気ねェ声」
思わず絞り出した声に、靖友がくしゃりと笑う。
私の好きな顔で、靖友はつらつらと言葉を重ねる。
「そりゃあ俺は確かに好みで言えば細い奴が好きだしィ?お前がこっそり見てた雑誌もスレンダーばっか載ってたけどヨォ」
「や、靖友気づいて、」
「でも、なんでかお前みたいなデブの我侭ちゃん、好きになっちゃったんだよネ」
彼の指が離れて、鼻がジンジンと痛む。
喉が震えて、目もなんだか霞んできた。
うぅ、とまた色気のない声が出てしまって口を両手で押さえるけど、睫毛から逃げていく滴たちを抑えきれそうにない。
机越しに抱きしめられて、私は彼のカーディガンを皺くちゃになるほどに掴む。
「デブでも、好きでいてくれる?」
「つーかこれ以上好きになったらどうしてくれんのォ?」
「……もっと好きになって欲しいよ、もっと夢中になって欲しいの」
「どのくらい?」
「デブって言わなくなるくらい」
「そりゃ無理だ」
靖友はまた汚い顔で笑った。愛の言葉なんだからヨ、なんて狡い言葉で逃げて。
でも、それくらいの照れ隠しは許してあげよう。
私は机に転がった飴玉の包装紙を脱がして、口の中へ放り込んだ。

際限など失くして、




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