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2014/03/24



今泉くんとディズニーに行く話のはずがまったく楽しい感じにならなくて無念。




テーマパークに行こうと誘ったのは自分のほうだったのに、頷いた今泉くんを見てすごく驚いてしまったのを、私はありんこみたいにズラズラと伸びていく列の中でぼうっと思い出していた。
嫌がったら首に縄つけてでも引っ張っていこうと意気込んでいた私の呆気に取られた顔は相当変だったらしく今泉くんはなんだよその顔、と口元を緩ませた。その時の瞳があんまり優しかったから、もしかしたら彼はここ最近続く猛暑にやられて頭をおかしくしてまったのかもしれない。
(じゃなきゃあんな風に私に笑いかける筈がないもの)
自慢じゃないけど、彼の彼女という肩書きを手にしたものの今泉くんは私の前で優しく笑ったりデートのお誘いに簡単に乗ってくれる男ではないのだ。
多分、強いて言うなら女の子で1番気が合って好きなのは私っていう感じなんだろうか。
だって彼の心臓が脈打つのは私の隣じゃなくて、真っ平らな道の上にある。
「進まないな」
上から降ってきた声に俯いたまま頷く。
「仕方ないよ、人気なんだもんこのアトラクション」
「ファストパス取れば良かったな」
淡々としてる彼の声は不満ひとつ溢さない。
普段ならやっぱり来るんじゃなかったとか人混みは苦手だ帰ろうとか色々言いそうなものなのに。
どうしたんだろうと靄がかかった頭で考えようとして、ふと気付く。
太陽が一直線に私達の上でギラギラ喚いているのに、私の足元は暗く染まっている。
(……影?)
地面ばかりを見つめていた目を上に向ければ、広げられたパンフレットと、血管の浮き出た彼の腕が私の頭上を覆っていた。
「今泉、くん」
「どうした、暑いか?」
「こっちのセリフだよそれ」
「俺は平気だ。普段の部活のほうがキツい」
「嘘、部活のほうがずっとマシでしょ」
生緩い風が首筋を伝って、汗がお気に入りのワンピースに染み込んでいく。
襟元を濡らすそれを拭うことすら忘れて、私はきょとんとする彼を睨む。
「好きなことしてるんだもん、そっちのほうが耐えれるに決まってる。本当はテーマパークだって興味なんか無いくせに、今泉くん変だよ、なんで、そんなに」
「なあ、ちゃんと帰ってくるよ」
遮る言葉が、私の思考を止める。
「夏が終わったら、また一緒に来ような」
今泉くんの長い指が私の頬を撫でて、そこでやっと自分の瞳が濡れていることに気付いた。
思わず顔を両手で覆って隠すと、髪を擽られて、悔しくなる。
全部お見通しだったんだ。
ずるいよ、今泉くん。
私はただ、夏が彼を浚ってしまう前に、少しだけ彼を独り占めしたかっただけなのに。
自転車に跨って遠くに走っていく彼を見送るのが、ほんの少しだけ辛くなっただけなのに。
「今泉くん」
「ん?」
「勝たなきゃ、許さないからね」
今日が終わったら、私はまた笑って素直に応援出来る。
ひたすらに前を進む彼が私のところに帰って来る日まで、ずっとその背中を見守ってる。
だから、ごめんねもありがとうも、夏が過ぎるまで待ってて。
言えたときには、今度は思いっきりわがまましてやるんだから。



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