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2014/03/15



巻ちゃんと遠距離恋愛したい。




私よりうんと高い背を小さく丸めて、巻島くんは私と目を合わせる。
駅のホームはずっとざわざわと私の鼓膜を震わせて、ささくれた私の気持ちそっくりで耳を塞ぎたくなったけど巻島くんのくれる言葉ひとつだって落としたくなくて、私は必死で彼を見つめ返していた。
「じゃあ、またな」
巻島くんはそう言って軽く手を振るけど、私は上手く返せてあげなくて、下手くそな笑顔を貼り付けたまま「またね」の一言が言えないでいる。
巻島くんは優しい人だから、いつだってそんな私を見て気まずそうに目を逸らしながら、あと少しだけ、と言ってくれる。
これで何度目だろう。
私はいつだって彼に甘えている。
「またすぐに会えるッショ」
あやすように私の頭を撫でながら巻島くんは簡単に嘘を吐く。
この冬が過ぎたら、春からは新入生だって入って部活は一気に忙しくなる。また、暫く会えないくなっちゃう。
ロードに、すべてをかける巻島くんが好きだ。
不器用で、ぐにゃぐにゃうねりながら真っ直ぐに自分の道を行く巻島くんだから、私は好きになった。
けどまだ高校生の私たちには遠距離恋愛はすごく苦しくて寂しくて、大袈裟かもしれないけど、私は死んじゃいそうな気持ちだった。
けどロードに向き合う巻島くんの邪魔だけはしたくない。
だから電話もメールもなるべくしない。
その代わり、こうやってほんの少しだけ会えるときだけ、私は自分を甘やかしてしまう。
この時だけは、誰にも譲らない。私だけの巻島くんだから。
「なあ、」
困ったような声にはっと顔を上げれば、予想通り困った顔をした巻島くんが人差し指で頬を掻いていた。
嗚呼、私はまた泣きそうな顔をしていたのかな。
「お前さ、寂しいなら寂しいって言えよ」
「……巻島くん分かるでしょう。私、すぐに顔に出ちゃうから」
「今じゃなくて、帰った後とかッショ」
「え?」
「電話越しだと顔見えねぇし、メールでも何でも言葉にしてくんねぇと分かんないッショ」
「けど、」
「ダチにさ、いつも電話かけてくる奴がいるッショ。髪は乾かしたかとかご飯は食べてるかとか、母親みてーッショ」
「……でも」
でも、きっと私弱音を吐いてしまう。
声を聞いたら、会いたいって縋ってしまう。
返事をくれたら、愛しくて、苦しくなってしまう。
巻島くん、私、
「お前が好きッショ」
口から溢れそうになった言葉が巻島くんの口から出てきて、私はビックリして息がひゅって鳴った。
巻島くんはそんな私を見て笑うと、あー……と今更のように照れてくしゃくしゃと緑色の髪の毛をかき混ぜる。
「お前が会いたいって言ってくれたらさ、いつでもは無理でも自転車で行くッショ」
「……馬鹿、遠いよ」
「クハッ、ちょっとキツいくらいが調度いいッショ!」
そうだよね、巻島くんも当たり前のように高校生で、私の恋人なんだよね。
本当はそんな時間ないだろうし、自転車で来るなんて無理だ。でも、巻島くんの言葉は不思議と叶えてくれそうな気がして、こんな嘘なら信じてもいいなって、思えたんだ。
「っと……もう電車の時間だな」
じゃあ、またな。
さっきと同じ台詞で、今度こそ巻島くんは歩いていってしまう。
それを後ろから追いかけて、その長い腕を掴まえる。
驚いて振り向いた彼はやっぱり猫背で、嬉しくて私は彼にキスをした。
寂しいと、またねと、ほんの少しのまた会いたいを込めて。



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