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2014/03/15



ブーゲンビリアの初恋の続きで、捧げものです。百合注意。




海常高校三年女子バスケットボール部部長の笠松幸緒は、私の親友であり、本当は恋人だ。
幼い顔立ちで大きな瞳が可愛らしい女の子。でも性格はとっても男前で、クラスの女の子達みんなから慕われている。
いつも堂々としているし、大きな胸を反らして腕組する姿がすごく格好いい。
けど格好いいだけじゃなくて、彼女は嫌がるけどバニラの甘い香りやドット柄のリボンだってちゃんと似合うのだから、ちょっとずるい。
私は自分の身体で机を隠すようにしてつるりと冷たいそこにシャーペンで汚い落書きをしているのがぴったりだったし、チェック柄の可愛らしい制服のスカートもみすぼらしく見えた。
身長はお空を目指して高くなったけど、私が望んだのは胸の脂肪という下品なもので。
一重まぶたの薄っぺらい顔は、私の心をそのまま映したようで好きになれなかった。
けれど、幸緒ちゃんは由枝の顔は綺麗だなって褒めてくれたから私はこの顔をちょっとだけ好きになれた。
伸びすぎた身長だって、バスケに向いていて羨ましいって言ってくれた。
ぺたんこの胸だって、由枝は細いし、私はこのくらいのほうが可愛くて好きだと言ってくれた。
私が不安になって幸緒ちゃんに「私のこと、身体目当てだったりする?」とあまりにも失礼なことを聞いたときも、「あたしは初めて目が合ったときからずっと、由枝のこと好きだったんだ」と言って、私にキスをしてくれた。
幸緒ちゃんは私の嫌だったところをすべて好きに変えてくれた。
いつだって、不器用だけど私に嬉しい言葉をくれた。
魔法みたいで、すごく素敵で、幸せだった。
だから、私はずっと彼女に返したかった。
彼女の望むものを、私も叶えてあげたかったの。

「幸緒ちゃん、えっちしよ」
まん丸で綺麗な目をさらに丸くしてどうしたの、といつもよりずっと小さな声で聞いてきた。
ティーカップを掴む指は微かに震えて、カップの中で紅茶がゆらゆらと揺れていた。
「ねぇ幸緒ちゃん、しよう」
「ちょ、ちょっと待て!」
幸緒ちゃんは慌てたようにティーカップをガチャンとテーブルに置くと居心地悪そうに目線を逸らしてこほんと咳をした。
幸緒ちゃんとは、付き合う前に一回だけそういうことをした。
というより、無理矢理された。
そのときの幸緒ちゃんは私を好きな気持ちと部活の負荷で板挟みになっていて、切羽詰まっていて、もうどうしていいか分からなくて、私に手を出した。
本当に怖くて、たくさん泣いてしまったけど、それは酷いことをされたからじゃなくて、幸緒ちゃんに嫌われたからこんなことをされてるだと思ったから。
けど幸緒ちゃんが泣きながら私のことを好きだといって、いっぱいいっぱい謝ってくれた。
だから私は幸緒ちゃんを許したし、付き合おうって言った。
あのときは正直自分の気持ちが分からなかったけど、今なら、胸を張って幸緒ちゃんが好きと言える。
私の世界すべて変えた、この人を。
「由枝はさ、その……」
「確かにさ、あのときはすごく怖かった」
幸緒ちゃんがその凛々しい眉を寄せてふっくらとした桜色の唇をぎゅっと噛む。
私はそれを人差し指でなぞって外させて、微笑む。
「でも、今は怖くない。幸緒ちゃんの気持ちが分かったから」
「由枝……」
「たくさん、幸緒ちゃんが好きって言ってくれたから、大丈夫」
だから私にも返させてほしい、幸緒ちゃんのくれた魔法を。
今度は二人で幸せを共有しよう。
祈るような気持ちで目を瞑れば、幸緒ちゃんがゆっくりと息を吐く音が聞こえた。
「……分かった、しよう」
はっとして顔を上げると、幸緒ちゃんは真剣に私を見ていて、嗚呼、もう戻れないんだと感じた。
このまま飛び越えてしまえば、今度こそ本当に、普通のレッテルを剥がさなくちゃいけない。
甘い夢ばかり見てはいられなくなる。
冷たい風を一身に受けて、この先も幸緒ちゃんが望む限り、ふたりぼっちの背徳感を抱えて生きていかなくちゃならない。
でもね、私は可愛くて愛らしくて彼氏に守ってもらえるような女の子になんてなりたくないんだよ。
「……あのね、幸緒ちゃん」
「うん」
「私はもっと、もっと幸緒ちゃんに近づきたいよ」
「……ん」
「駄目?」
「そんなこと、あるわけないじゃん」
幸緒ちゃんの指が私の手首を捕まえたかと思うと、ばふんと背中に優しい衝撃。
押し倒されたんだって理解する前に幸緒ちゃんの唇が私のそこに降ってきた。
いつものキスよりうんと甘くてうんと深く私を貪る。
幸緒ちゃんの背中に腕を回すと、離れた唇が私の首筋を柔く噛んだ。
「んっ、幸緒ちゃん、」
「何?今さらやめてはナシだけど」
「ふふ、そうじゃなくて、私最初から知ってたんだ」
「何を?」
私は潜めいた密事に胸を踊らせながら、そっと彼女の耳元で囁いた。

「幸緒ちゃんが狼だってこと」

魔法使いの正体
(優しくて柔らかくてちょっと不器用な狼さん、どうぞ召し上がれ)



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