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2014/03/15



大学生パロで同棲設定。




「なんでお前いつもそう屁理屈しか言わねえんだよ!」
「笠松こそなんでもかんでも感情まかせにするなよ、大人気ない」
「どっちがだ、お前だっけ結局いつも自分本意じゃないか」
「……もういい、だったら家出ていけよ」
「あ?」
「出て行ってくれって言ってるんだ」
「なんで俺が出て行かなくちゃなんねぇんだよ!」
「煩い!元はといえばお前が悪いんだ」
「は?森山、いい加減にしろよ」
「こんな言い合いしてても埒が明かないだろ!お互い離れるのがいいと思うけど?」
「な、」
「いいから出ていけよ、荷物なら後でお前の実家に送るから」
「……お前、本気で言ってるのか」
「当たり前だろ、もう顔も見たくない、さっさと行ってくれ」
「っ……!」
笠松は苦しそうな顔をした後に俺に背を向けて玄関へと向って行った。
荒々しく閉まるドアの音と、足早に去って行く靴の音。
それがなくなればあれほど煩かった部屋はしんと静まり返り、俺を一人にした。
耐えられず、床へと座り込む。
さっきまで張っていた虚勢は、もう跡形もなくなっていた。
同棲し始めてからこんなに大きな喧嘩は初めてかもしれない。
もう何がきっかけでこんな風に言い争っていたのか思い出せない程、俺の心はささくれていた。
どうしてだろう。
高校の頃は、傍にいれるだけで良かったのに。
あの頃は気持ちを告げようなんて思っていなかったから。
一生、隠しておくべき想いだと思っていた。
ただ隣りで笑ってくれるだけで、どうしようもないくらい嬉しくて、幸せで、舞い上がってしまっていたのに。
なのに、今は笠松がいつでも傍にいることに安心して、ただの日常となって、当たり前だと勘違いするようになってしまった。
笠松がずっと俺と寄り添ってくれるだんなんて、あり得ないことだったのに。
どうして出ていけなんて言ってしまったのだろう。
今更、咄嗟に口から出ただけの言葉なんて言っても遅いかもしれない。
笠松に今すぐ謝るべきだ。
でも、その勇気がない。
拒絶されるのが怖いのだ。
もういいと、呆れて向こうからさよならを告げられるのが、怖い。
このまま、終わらせてしまったほうがいいのかもしれない。
最近は小さな喧嘩も多かったし、近いうち笠松の方から捨てられていただろう。
なら、自分から別れを告げられたのだし、このまま終わらせてしまえば、傷は浅いはず。
なのに、
「っ……」
駄目だ、泣くな。
逆に今までよく付き合ってくれたよ。
すぐに別れてもおかしくなかった。
笠松なら、男であろうが女であろうが、俺よりずっと良い人を捕まえられる。
それでも俺を選んで、一緒にいてくれた。
三年の冬から今まで短い期間だったけど、それで充分。
充分だ。
そうだろ。
「……くそっ、」
こぼれ落ちそうな涙を必死で堪えていると、カタンッと玄関から郵便受けに何かが入る音がした。
「……笠松?」
玄関へと向かい、郵便受けを開ける。
「……これって、」
震える手でそれを拾う。
鈍く光る、銀色のそれは、俺の身体から一気に体温を奪った。
「かさ、まつ」
今度は抑えきれなかった。
「っ、ふ、か、さ……まつ、うぁ、笠松……っ!」
間違いない、これは、指輪だ。
俺の薬指にはめられているものとペアになっている、笠松の。
「うっく、かさま、っ、ごめ、ごめん……!ひっ、く」
謝る前に拒絶されてしまった。
さよならを、告げられてしまった。
最低だ。
自分から出ていけと言ったのに、今こんなにも後悔して、苦しくて、死にそうだ。
嫌だ、笠松、謝るから、何でもするから、傍にいてくれ。
もうお前のいないの人生なんて考えられない。
隣りにいたい、俺はどうしようもない馬鹿だけど、お前の恋人でいたいんだ。
好きなんだ、
「っ、ゆき……!」
「由孝!」
荒々しい音と共に突然光が玄関に満ちて眩しさに目を細めると、自分よりも少しだけ太い腕に身体を抱き締められた。
暖かくて、優しい、その感触を俺は知っている。
ゆきの身体だ。
「ごめん、由孝、悪かった」
「……ゆき?」
「ほんの脅しっつーか、少しは焦ってくれるかと思ったんだ」
「……」
「まさか泣かせちまうとは思ってなかった……」
「ゆき、ごめん、嘘だから、出てって欲しいとか、嘘だ、」
「ああ、分かってる」
「ごめん、何でもっするから、」
「由孝?」
「頑張るから、ゆきに好かれるよう努力する、だから、お願いだ、ゆきの恋人でいさせて……頼む」
それ以上言葉にならなくて、伝えたいことはたくさんあるのに、ただ嗚咽となって地面へと落ちて砕け散っていく。
その破片をぼやけた視界に映しながら、ゆきに嫌われたくないと願っていた。
それしか考えられなかった。
「お前は……!」
肩を掴まれて身体を引き離される。
ゆきの顔と、真正面から向き合う。
「なんでそう、俺がまるでお前を好きじゃない風に言うんだよ!」
「だって、俺出ていけとか酷いこと言って、ゆきに呆れられて」
「ねえ!確かに言われたときはイラついたが……それで愛想尽かしたりしねぇよ」
「でも、指輪だって」
「だからそれは、お前が少しでもヤバいって焦って、俺に謝ってくれるかと思ってやったんだ、まさかお前がここまで反省して、泣くだなんて思ってなかったんだよ……悪かった」
「ゆき……俺のこと、好き?」
「ったく、好きだよ」
「俺も、俺もゆきが好きだ、大好き」
今度は俺の方から抱き付く。
ぎゅうっと腕の力を強めれば、痛ぇよと小突かれた。
暖かい腕の中で、息をゆっくりと吐く。
「あー……久々にこんな泣いた」
「わりぃ、お前のこと不安にさせた」
「なぁ、不安にさせたならその分、また安心させてくれないか?」
「ああ、」
頬を両手で包まれ、そっと唇を重ねる。
その動作ひとつひとつが優しくて甘くて、また視界が滲む。
「おい、もう泣くなよ」
「無理だ……幸せすぎて、無理」
「これじゃあ先が思いやられるな」
「何だよ先って、うわっ!」
突然身体が宙に浮いて思わず笠松の胸元にしがみつく。
どうやら抱き上げられたらしい。
「か、笠松?」
「お前が安心するまで身体に教え込んでやるよ」
「ちょ、ちょっと待て、そういう意味じゃ」
「あと笠松じゃねえだろ、由孝」
また唇を塞がれて、無遠慮に口の中で暴れる舌に翻弄される。
「ん、ふ……ぁ、ゆき」
「良い子だな」
頭を撫でられ、微笑まれる。
くそ、こいつ俺がその顔に弱いのを分かっててやってる。
駄目なんだ、そんな愛しそうに見つめられると、すべて許してしまう。
そのままベットへと運ばれるのを止める気も起きず、俺は諦めて彼の首元に腕を絡めた。

傍にいること
(今までも、これからも、)



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