大切なものは枕元に置いて眠るんです。
いつだったか、彼女が言った言葉を思い出した。その時は申し訳なくも聞き流していたから曖昧だが。興味はあった、はずだ。ただ以前はひどく緊張していたから。だから。
そんな俺がいうのもおかしいが、どうして彼女はこんなにもいとしくあいくるしいのだろう。いまではこの気持ちは不可抗力のものであり心臓と同化してしまい剥がすことが出来ない。彼女を見て何も思わないなんて、俺にはもう出来ないのだ。
部屋に入ると彼女は寝息を立てていた。もう日付が変わってから数時間経っているのだから当たり前だ。夢を見ているであろう彼女に近づく。その表情は安らかでそっと撫でてやりたくなる。というか思った時にはすでに手が伸びていた。
顔にかかった髪をよける。ふと視線をずらすと、やはりそこには思った通りのものがある。昨日あげた、イヤリング。
何かの記念にプレゼント、というわけでもなく。帰宅途中にたまたま寄った店で見つけたからとプレゼントしたもの。同じ形のピアスもあったが、親からもらった体に穴を開けるという行為を受け入られない、なんて自分勝手な理由でイヤリングを選んだ。ハルは文句一つ言わずに受け取ってくれた。社交辞令のようなかわいい、うれしいという言葉ではなくただ一言ありがとうと。
正直な話、ハルのことだから小さな箱にでもしまうんじゃないかと思った。しかし日中は身につけてくれているようだし、夜中はこうして枕元にある。
嬉しかった。俺が贈った理由を知っているようで。汲み取ってくれたみたいで。
「俺がそばにいれない時も、心は、そばに」
俺よりもながくハルのそばにいれるのは少し妬けるが。ハルがそう思ってくれているならそれでいい。
120404