彼女は月だ。月子、そう名付けた両親は未来の姿がきっと見えていたんだろう。月の子。その名に相応しいほど、彼女はやさしい光を持っています。あまりにやさしすぎるので視線を反らすことができません。

「いでっ」

そんな俺に制裁が下ったらしい。一瞬視界が白くなる。あーぁ、今日もばれた。後ろを振り向くと宮地が拳を掲げながらすぐそばにいた。いてーなー。いつも思うけどぐーで殴るなよなぁ……って、わわわ、もう一発は勘弁してくれ。その腕は下げてくれ。「言いたいことはわかってるな?」へいへいわかってますよーわかってますからほら、この通り!な!許してくれよー、としょうがないから俺はいるべき場所へと戻った。

戻ったはいいんだけど。やっぱり気になって無意識にちらちら。勘弁だったもう一発が飛んできてようやく俺は真面目に部活をやることにした。俺、悪くない。ほら、月の住人って不思議なオーラがあるらしくってそれのせいで人の心を魅了しちゃう……はい、ごめんなさい。


「さーて、馬鹿置いてみんな帰ろうーぜー」
「え」
「あぁ、しっかり掃除しておけよ」
「え」
「お、おつかれさまです、白鳥先輩」
「え」
「では、お先に」
「え」
「よくわからないけど、また明日ね、白鳥君」
「…」


あまりに最近の態度が目に余るから今日こそは罰をやる。そういわれたのはほんの数分前。宮地が言い出すのはわかる。けどみんな意見が一致っておかしくないですか。おかしいだろー?あーあーあーそんな態度悪かったかよ。あーぁ。
閉じた戸を眺めてたって仕方ないから、しょーがなく雑巾を取りに行く。一人さびしく雑巾がけだなんて。どんだけさびしいやつなんだ、俺。
いやでも待てよ。もしかしてこれは、かぐやと結婚したければ〜という無理難題のようなものなんかじゃないだろうか。夜久に相応しいか試されている。うん、きっと、そうだ。これが終われば見事夜久は俺のお嫁さんにー…って結局月戻っちゃうんだからだめじゃん。違う、そっちじゃなくってハッピーエンドになる月の話ってないのか。あるんだろうけど、浮かばない。
浮かばなさすぎて思わず手が止まってしまっていた。から。

「いっ!」

また何かが俺の頭に当たった。落ちてきた。拳でなかったことが思いやりとでもいうような容赦のなさで、勢いがとてもあったおかげでまた視界は白くなった。なんなんだよもー!と振り返ったそこにいたのは犬飼だった。手はまるで刃のように立ててある。チョップですか。

「働けばーか」
「だって夜久がさー」
「この期に及んで言い訳をしようとするお前の根性は褒めてやろう。しかーし、そんな言い訳は口にしなくてもわかってんだボケ!」
「ってえ!」
「白鳥君どうかしたのかな?とかいわれてたぞてめー。そして俺は今日の犬飼君すごかったねと褒められたぞおい」
「さ、差別はんたーい!」

今度は尻を蹴られて、ようやく俺は雑巾がけをスタートした。




彼女は月だ。俺だけじゃなく周りをも惑わし、吸い寄せる。やさしい光と錯覚させられてしまう。全然、やさしくなんかない。それでも見つめるしかないだろう。だってやっぱりやさしいと思えてしまうんだから。手を伸ばさないだけ褒めてほしいくらいだ。
そういうとまた、蹴られた。
って、おい!

120311
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