近所のスーパーで土曜早朝限定の安売りをやるというチラシがポストに入っていた。ちょうどお互い仕事も用事もないならいいんじゃないかと、早起きしなきゃいけないところに少し顔を見合わせたけど、せっかく安いんだし時間はあるんだから行ってみようかってことになった。チラシを間に挟んで何を買うか相談するついで、昼は俺夜は月子がご飯を作ることも決定。




目覚ましはセットしないで起きれたら行く、なんてちょっとした遊び心も混ぜてみた昨晩。きっと俺が起きちゃうんだろうと予想していたのに、見事に先に起きたのはめずらしく月子。揺すり起こされた時からずっと笑顔で、余程嬉しかったのか。それからも少し上機嫌で、会計が終わった今も鼻歌まじりに野菜や肉をエコバックにいれていた。


もう錫也の援助も必要ないんだよ!
なんて寂しいことをいってくれた月子は買ったものを全部しまい終わりスーパーを出てからすぐ、さっきまでの様子とは一転。急に、何か思い出したのか上着のポケットから慌てて折り畳まれた紙を取り出す。真剣な眼差しで両手で持ったそれは買い物リストだった。買い忘れがないのか確認していると思ったが違うらしい。眺めているというにはあまりにも必死すぎる。さっきまでルンルンって感じだったのに今は焦っていることを横顔を見ただけでわかった。「まずキャベツを切って……ニンニクをすって…あれ?ニンニクはあとでいいんだっけ?」
何をつくるかはお楽しみ!と献立を教えてくれなかったけど、だんだん月子の独り言で今日の晩御飯は多分餃子かなと、だいたいの想像が出来てしまう。餃子かぁ。最近食べてなかったし、月子が作るのは初めてだろうから楽しみかもしれない。そしたら俺はパスタにして正解だったかも。



手を繋ぎたかったけどあまりに必死な様子で紙と睨めっこしているからそっとしておいてみる。眉間に皺を寄せ出して、ちょっと、どころでなくかなりおもしろい。かわいい。たまにそれは違うかなーなんて心の中で教えてあげて、家路についていった。


「ただいま」
「た、ただいま!」


復習というのか予習というのか、夢中になりすぎて家に着いたことも気付かなかったみたい。俺の声に慌ててただいまという彼女に笑ってしまった。








「わたし手伝うよ」
買ったものを冷蔵庫にしまい、まだ早い時間だったからあったかい緑茶を飲んで一息ついた。しばらくしていい休憩になったからそろそろ準備しますか、と立ち上がると同時に申し出てくれた。
「だーめ」
なのに断る、俺。

「え、どうして?邪魔はしないよ?」
「晩御飯の準備、月子は俺に手伝わせないつもりだろ?だから俺も手伝わせてあげない」


「少しなら手伝ってくれていいんだよ…?」
ふっ、とあからさまに笑ってしまった。そんなに手伝いたいと思ってくれるなんて。
「そしたら俺も、少しだけ手伝ってほしいかも」
「ふふ、じゃあ、しょうがないなぁ」





短い距離だってわかってるけど、月子の手を掴んだ。さっき繋げなかったから。
月子がどう受け取ったかはわからないけど、まるでこれから散歩に行くみたいに握った手を揺らされる。
おかしいね、おかしいなって。


120115
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