なんだかびみょーに時間が空いてしまった俺はどこに行くでもなく部屋のソファーに座っていろんな音楽を聞いていた。音楽、というよりも歌を。 ギターやベースを掻き鳴らした激しい曲、静かに始まりだけどだんだんと明るく広がっていく曲、走り出したくなるくらい気持ちいい曲。ロックにポップ、バラードも。ミュージックプレイヤーに入っている曲をランダムで流して防音ってのをいいことに歌いたくなったら歌った。こんな風に過ごすのは久しぶりかもしれない。最近は少しずつ仕事ももらえて、辛いしキツイけど楽しくって学園にいた時よりもはやいペースで毎日が過ぎていた。 ソファーに座ってるのにも疲れてひじ掛けに足乗せて寝たりすんのも久しぶり。その体勢のまま歌うのも。スピーカーから流れてくる曲の歌詞とか雰囲気があの子みたいと思うのも懐かしい。 あの曲もこの曲も。俺の中のイメージに合う曲が流れる度にあの子が笑ってる映像が浮かんだ。楽しそうな表情が頭に積もって、振り払うように横になっていた体を起こしひじ掛けに座る、というのを繰り返して今もまた。 勢いよく起きた拍子に時計が見えてあと1時間以上まだ時間があることを知る。結構経った気がしたけどまだまだだった。そんな風に思えるのはすごく幸せだと。思いながらもどこかせつないのは。 またあの子のことを思い返していたらタイミングよく何度も聞いたイントロが流れ出した。あの子が作ってあいつが歌っている曲。あいつが歌ってるのかと思うくらいアップテンポなラブソングは俺の好きな曲調でもあった。やっぱあの子が作る曲はどれもすごい。すごいって言葉しかいえないほどすごいんだ。だから俺も歌ってみたかった。 でもこの曲にはいろんな思いが込められていてその中でも色濃く伝わるのは好きという気持ち。二人にとってすごく大切な曲。何度も聞いたけど俺は一度だって歌うことは出来なかったんだ。 今日も試すことには試してみる。でも、流れるあいつの声に重ねて歌詞を辿ってもやっぱり歌えなかった。こんな、溢れるくらい好きが溢れて、そして好きが行き交ってる曲なんか歌えないよ。それでも歌いたいという気持ちは止まらない。だから試す。何回、ダメだったとしても。 俺が歌うのをやめても曲は流れていた。それが辛くて、俺は立ち上がった。ミュージックプレイヤーの前に立って次の曲へ。今日はどうしたんだろう。次に流れたバラードにその場で立ち尽くした。 流れる歌詞を聞きながら思う。 悲しむような恋はしてないよ。胸を掻き毟りたくなるような愛は持っていない。俺の中にあるのはただそばにいれるだけでいいっていう思い。そして叶うならあの子の曲を俺も歌いたかったって。 間奏に入るまで動けなかった。 予想外に切ない気持ちになったのだって機械の選曲がちょっと意地悪だっただけ。俺はようやくもう一回ボタンを押してまた曲を変えられた。次に流れ出したのは明るいポップ。 今度こそ俺は歌うんだ。 111020 |