「平助くんの髪はとても、長かったよね」
だから慈しんでいた、と錯覚させるような声色で隣に横になっている千鶴は云った。とても長かったね。ただ長いだけで意味もなかったけどな。彼女にそう云うのは少し違う気がして俺は口を閉じていた。頷くこともせずにただ彼女の目を見つめる。それでどうした、なんて思っていないことが伝わるように微笑んで。千鶴もお返し、とでもいうのように微笑んだ。微笑んで俺の髪を撫で始める。髪から伝わる指先のたどたどしさが彼女の緊張を表しているように思えた。どうして震えている?何も考えずに触れてくれればいい。その手を振り払うことなんて出来るはずないのだから。
気持ちがよくて目を細める。
「長い方がよかったか」
「ううん、どっちも好き。平助くんは両方似合ってたから」
「そっか。それならどうして唐突に、そんなこと?」
髪を撫でていた指先が耳に、頬に、触れた。
どうしてだろうね。
千鶴は俺と同じ疑問を言葉にする。なんだよそれ。俺は笑った。微かに感じられた震えが消える。
いつもなら二人目を閉じて眠っている頃なのにお互い笑い合っていた。千鶴を真似て、解かれ枕の上に広がる千鶴の髪に触れた。さらさらと流れる。俺のものとは質の違う髪。彼女のように伸ばしたところで無意味な、俺の髪。
「綺麗だったから勿体なかったなって思って」
その言葉を否定するのはできなかった。千鶴があまりに幸せそうに云うから。綺麗だったなんて今も思わないけど。彼女がそう思ってくれていた、そのことが素直に嬉しい。
「んなの気のせいじゃね」
だからこれが俺の精一杯の言葉。千鶴になら伝わるはず。今抱いているこのむず痒いこの感情がとても、
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