「時計の音は心地良いですね」



いつもと変わらず俺に胸に頭を預けながら紗夜は呟いた。安らいでくれているのかその眸はとろんとしている。
しかしこの部屋にチクタクと音を出す時計は一つもない。音を発するものといえばそれは二つ、つまり俺と紗夜だけ。では何故彼女は突拍子もなく口に漏らしたのか。



「時計?この部屋は静寂に包まれているけれど紗夜には時計の音が聞こえるのかい」
「はい。私には聞こえます。トクトクと刻む、時計の音が」



こうやって。
説明もせずに彼女は俺の手を取り自分の胸へと持っていった。ね、聞こえるでしょうと一言。時計とは、つまり、心臓のこと。確かにお前の鼓動は心地良いね。それは納得できる。けれど鼓動を時計と比喩したは何故だろうか。たしかに時計のようではある。
時計と違うところは一つ、簡単に乱れるところ。些細な、けれど一番重要な違い。彼女にはそんな隔たりは関係ないのか。
紗夜の心の臓に手を置き考える。
トクトクトク。
延々と刻む、途切れてはいけないもの。愛おしさを感じながら俺は自分のものにも触れてみた。紗夜とは違う鼓動を刻んでいる。



「確かに時計のようだ。しかし時計ほどの正確さはないだろう?」
「正確さなど必要ありません。時が進んでいるのがわかる。それだけで私には同じものに思えるのですよ」


俺は噛み締めるように

「時が、進んで、いる」

繰り返した。


生きているということ。
存在しているということ。
俺達の求める唯一の証であるそれ。
そうだね、それならば正確さなど必要ない。自分の胸に置いた手を離し紗夜に触れている方に意識を集中させる。
トクトクトク。
あまりの幸福感に目を閉じた。


110807
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