目の前でライトをあてられているような強い光。
影を求めて寝返りをうつとそこには何かがあった。これは、枕、か。考える気なんて起こるはずもなくそのままその何かに手を伸ばし、夢の断片を手繰り寄せる。光から逃げるのはとても簡単だった。
起こされたわけでもなく自然に瞼が持ち上がる。あぁ眠りすぎたのか。あっさり達した結論は本当にその通り、部屋に陽が差さなくなるほど太陽はもう西へと向かってしまっている。今日は何かしようとしていた気がする。思い出せもしないそれはきっと大したことではないのだろう。例え思い出したとしても、今からしようとは思えない。ベットから降りることすら億劫なのだ。もういっそ日が暮れるまでここで過ごしてしまおうか。そんな考えすら浮かぶ。堕落した思考だ。
そういえば彼女はどこにいるんだろう。朝から出かけると昨日の夜言っていたが、まだ帰ってきてはいないのか。体は起こさずに扉の方に振り返る。西日が扉を照らしているだけでその向こう側に人がいる気配はない。まだ、帰ってきてない、か。
「はやく帰って来てよティアナ」
返ってくる声はなくしんとなる。やっぱりここまできたらもう寝て過ごすしかないかな。寝過ぎて体は怠いし彼女もいないし。
あーあ。枕に顔を埋めるとなにかいい香りがした。これは枕じゃない?ふわふわと甘い香り。いつだったか嗅いだことがあった気がする。枕だと思っていたものから顔を離してみると僕は納得した。
まったく、ティアナは。
視界に咲いた赤。どこかなつかしいそれに笑みが零れる。寝ている僕に花を贈るなんて彼女も案外悪戯が好きなのかな。想いが通じ合っていないと咲かない花。満開と呼べるほどに花びらを広げている。
そうだ。思い出した。ティアナが帰ってくるまでに家事をしてあげようと思っていたんだ。全然大したことじゃないか。それをすれば彼女の笑顔が見えるのだから。
今からではもう遅いかもしれないが少しでも喜んでもらいたい。花を見て感じた気持ちを彼女にも共有してもらいたい。さっきまで怠かった体は軽くなりすぐに着替えを手に取る。
着替えが終わったら。
そうだな、まず花を花瓶にいれてあげよう。
「はやく帰って来てねティアナ」
110722