部屋の鍵だけを渡して先に行かせたティアナを待たせないために両手に余るほどの荷物と一緒に階段をのぼる。荷物の紐が食い込み指の感覚が曖昧になっているがわざわざ足を止めるほどでもない。あまり遅くなってしまうとティアナは謝るだろう。そんなことはさせない。だから二回に分ければ楽な荷物を一気に持っていた。
「ティアナ、僕だよ。ドアを開けてもらえない?」
ようやく部屋の前に着く。一階から三階へ歩いただけだというのに荷物のせいか息が切れてしまった。これまでの生活で鍛えられたと思っていたけどそれはハズレだったみたいだ。胸が喉が苦しい。すごく、情けない。でも、中に声をかける前に深呼吸をしたからティアナは気がつかないはず。もう一度、息を吐くと部屋の中からティアナが近づいてくる音が聞こえ、すぐに鍵とドアを開けてくれた。
「ありがとう助かったよ」
「ううん、こちらこそありがとう。今お茶をいれてたの。荷物はそこらへんに置いて、一緒に飲もう?」
「そうだね。じゃあすぐに行くからティアナは準備をして」
僕の言葉に従うティアナの背を送ってから、一度足元に下ろした荷物をまた持ち上げる。階段ではないからかさっきよりも軽く感じる。部屋の中に入り鍵を閉め、ドアの近くに荷物を置くと部屋に入る前は気がつかなかったけどほのかにお茶の匂いがした。いい匂い。ぽろりと出た言葉を拾った彼女は小さくはにかむ。
カップを受け取り椅子に座って気づいらた自然に力が抜けていた。目の前には僕と同じくカップに口をあてる彼女。どうやら僕は上手く隠せたみたい。このお茶はそのことに対するご褒美みたいだと、お茶から出る湯気を見る。身に染みるくらいあたたかい。
「うん、おいしい」
「よかったぁ。あ、お菓子もあるんだけど食べる?」
「ティアナが食べるならもらおうかな」
110720