籠もった空気に酔ったのを理由ってことにして少し席を外すと、先客がそこにいた。ある意味では今日の主役だってのにこんなとこで何やってんだか。つーかよく出ていったのがバレなかったなぁ。出てたこと気づかなかった。こいつのことだから真面目に一言告げてから出てきたんだとは思うけど。俺と違って。



「んなとこいると風邪引くぞー」
「あ、犬飼くん」
「どした?空気にでも酔ったか?つーか一人でこんなとこいっと、あいつ心配すっぞ」
「うん、少し火照りを冷まそうかなって。龍之介なら大丈夫だよ、ちゃんと言ってきたから」



店内の椅子に座っていた夜久の隣に腰を下ろした。ちょうど一人、間に入れるくらいの空間を残して。
一息ついて、真面目だなぁと今度は呟く。店内は流行りの歌がそれなりの音量で流れてるから夜久に届いたかはわからない。俺なら無理だ。まぁ彼氏があいつだからそうならざるを得ないのかもしれないのか。それとも根っこんとこが似てるのか。きっと両方なんだろうなぁ。



「そいやお前らもやっと結婚したんだよな」
「うん、だからこれからは夜久じゃないんだよ」
「げ、お前も宮地かよ。当たり前だけどややこしいなぁおい」



照れたように、俯いた夜久。夜久のことを宮地と呼ぶ。慣れるかなんてわからないがずっと慣れないなと思ってしまった。



「これからは宮地月子だもんな。宮地妻?」
「もう、からかわないで」
「はっはっはっそれは無理だ。でもまぁ宮地、月子か……いいんじゃね。違和感ねぇよ」
「ほんと?よかったぁ。変とかいわれたらどうしようと思っちゃったよ」



もう卒業して何年も経って社会人になったっていうのにこいつがたまに見せる表情はあの頃と何一つ変わっちゃいなかった。こりゃ宮地のやつ苦労するわ。しないわけないって。だけど、あいつにとったらその苦労も幸せのひとつだったりすんのかな。独り身の俺にゃうらやましい限りだぜ。



「実はまだ龍之介にしかいってないことがあるの。みんなには後で話すつもりなんだけど、」



今はたまにしか、こうやって開かれる飲み会でしか会えないふたりだけど俺との関係なんて変わることはない。
宮地になっちまった夜久をこれからもからかうだろうし、だだ甘の宮地だってからかってやる。
そんでいろんな話を聞いてやんだ。俺はいつだって気兼ねなく接せられる第三者でいるんだ。ずっとお前らを笑ってやる。

これは誰かがうらやむ、俺にしか出来ないことだって信じてる。



「え?まじ?」
「うん、ほんとだよ」
「やっるなぁ宮地も。で、男?女?」
「さすがにまだわかんないよ」
「んだよ。わかったらすぐ教えろよなぁ。とりあえずまぁ、おめでとう」


フリリク/想叶様
110602
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