肩を掴まれた。あたたかいそれに縮まるわたしの心臓をよそに白鳥くんが真剣な眼差しを向けてくる。ダブルパンチで頭がくらくらしそう。
「夜久」
「し、しらとりくん?」
「……なんで顔そらすんだよ」
ぎくりとした。そう、耐えきれなくなったわたしは咄嗟に目を、というより顔をそらしてしまった。
でもわたしは悪くないはずだ。
なんて言っても白鳥くんがわかってくれるかは、危ういところ。どちらかといえばわかってくれないかもしれない。
「もしかして……嫌?」
「嫌なわけないよ!」
「じゃあどうして」
うっと言葉につまる。ドキドキしすぎてどうにかなっちゃいそうだから、なんて言える訳ない。見るからに不安そうな白鳥くんはいつまと違って少し冷静だ。笑うと下がる眉毛が今は眉間に皺を寄せ、上がっている。
たまに見せるそういうところがかっこいいなぁ。余計なことを考えてる場合じゃないのに。動悸をを抑えなきゃいけないんだから。深呼吸をして頭の中を空っぽにしようと息を大きく吸う。気づかれないように、気づかれないように。なんて思いながらしたのだけどそれは無意味だった。
肩に置かれた手の力が緩む。どうしてかと思いちらりと横目で白鳥くんの表情を伺うと、無表情に近い困ったような顔をしていた。
「ごめん」
手も離され、謝られる。白鳥くんは何も悪くないのに。非があるのはわたしだ。こんな場面になってほんの少し、怖気づいてしまった。何かが変わる訳じゃないのに。何かが変わってしまいそうな気がして。
でも、変わりたくって。目をそらしながらも心は向かっている。だから動悸が止まらない。
結局、わたしも覚悟はできてるんだ。
「白鳥くん」
今度はわたしが白鳥くんの手を握り目を瞑る。大丈夫。一息ついて、そう願いを込め初めて「弥彦」と呼んだ。聞いた白鳥くんがどんな反応をしたのかはわからない。わからないけど、握り返してくれた手と瞼の向こうの影がわたしの願いを叶えてくれる。あと一瞬で。
フリリク/ゆこむ様
110420