なんとなく。ここの生徒なら星を観に行く理由はそれだけで十分だ。もちのろんで俺も例外ではなく。ただ、なんとなく。天体観測に行こうと思った。あいつを一緒にいかないかと誘ったのも、なんとなくということにしておく。




「うげ、雲出てるじゃんか」
「え?わ、本当だね」



屋上の扉を開けると視界に飛び込んできたのは鈍色の雲だった。寮を出て校舎に入るまで雲一つない空だったのに。階段をあがったちょっとの間でこんな曇るとか。運悪ぃなぁ。星がちょっとしか観えないじゃんか。目の前に広がる景色にため息が出る。座ろうぜとよろよろという擬音が似合いそうな、自分でも情けないと思える足取りで誰もいないベンチに腰掛けた。続いてあいつも腰を下ろす。端っこと端っこっていうとこがまた、なんとも。
くだらない考えは隅に置いて星空とは言いがたい空を仰いだ。上空では風が強いのか雲が流れていくスピードが速い。ちらりと星座のはしっこだけ観せてまたすぐ隠す。こんなチラリズムいらないっての。いうなればなんとなく。だけどホントはすっげぇ星が月が観たかった。なのにこの天気はなんだ。せっかくありったけの勇気を消費して誘ったのに。



「ベガもアルタイルも観えないね」



ちぇーっと悪態を口の中に吐き出している時に隣から聞こえてきた言葉の意味がわからなかった。観たかったのかと聞くとうん小さく頷かれた。でもなぁ今日は観れたとしても少しだけだろう。



「観れたとしたら、アルタイルはあそこか?」
「うん、それでベガはここだよね」



お互いに指差す先には雲がある。かすかに動いていることを確認できるが、いつ雲から顔を出すかはわからない。しかも同時に、なんて、きっと今日は観れないだろう。夜久も同じことを思っているのか何もいわなかった。彼女は右手、俺は左手で。空を見つめ続ける。





どれくらいの時間が過ぎたのかはわからない。わたしも白鳥くんも時計なんか見ようとしなかった。上げていた腕は自然にもどっていき、顔だけを向けている。目が反らせない。
一度アルタイルが姿をみせたみたいだけどベガが現れることはなくまた隠されてしまった。



「あ」



また雲から出てきたのか白鳥くんが指を差す。しかしわたしが見つめるベガがいるであろう場所にはただ雲があるだけ。もっと雲がなくなるくらい風が吹いてくれたらいいのに。今日という日が終わってしまう前に。お願いだから、会わせてあげてください。祈るように目を閉じた。

その願いが届いたのだろうか。左手にあたたかさを感じたと思うとすぐに名前を呼ばれる。返事の代わりに瞼をあげると、そこには。



「……ベガ」
「やったな、ベガもアルタイルも観えたじゃんか。てかなんでベガとアルタイルなんだ?」
「今日は七夕だから、かな」



七夕だから誘ってくれたんだと思っていたけど違ったみたい。ただ天体観測をしたかったのかな。それともわたしが望んでいたのに気づいていたのかな。





七夕。すっかり忘れていた。もしかしたら夜久は七夕だったから誘いに乗ってくれたのか。だとしたら、すっげぇナイス、俺。無意識に上がる頬を誤魔化し笑う。曇りだったってよかったや。こうやって二人で喜び合えるなら、全然。



「これで織姫と彦星は会えんのかな」
「今は川じゃなくって雲があるから、どうなんだろ。雲に橋って架かるかなぁ」



さっきみたいに夜久はベガへ手を伸ばした。つられて俺もアルタイルへと手を伸ばす。
あれ、これって。
夜久も同じことを考えたのか左手を俺に差し出す。いたずらを思いついたような、なんていったら怒られるかもしんないけど、ほんとそれくらい楽しそうな表情を浮かべている。だから俺も躊躇することなくその手を取った。




これで会えるかな
絶対会えたよ
それならまた隠れちゃうまで繋いでおかないとだね
なるべくながく一緒にいさせてやりたいもんな
うん
ほんとよかったなぁ
きっと、今、幸せだね



誰が、だなんて俺は聞こうとも思わなかった。織姫と彦星。夜久と俺。きっと4人がだって、信じてる。


素敵企画天の川様提出
110707
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