見慣れた髪のやつを見つけたから、後ろからタックルしてやった。普段適当に着てる制服が今日はきっちり、違和感満載で着られいる。
「っぶね。なんだよおめー」
「特に用ないけどさぁ。ほら今日卒業式じゃん!」
「卒業式、だからなんだよ。別に今日で最後じゃないだろ俺ら大学一緒だし」
「うん……まぁ、そうなんだけど、」
自分から走ってきたくせして話題なんてなかった。いつも通りのつもりで話しかけた気でいたけど違ったか?ぶつぶつと考えてる間に犬飼は鬱陶しいという表情をして肩にかけていた俺の手を払う。あれ、でもこれはいつも通りだ。
「俺たちも卒業かぁって思ったらなんとなくさみしくなんねぇ?」
「んなのならないわけねぇだろ」
「だろ?で、そう考えてたらうおおおってなったのよ」
その意味がわからないと一蹴りされた。わかれよばか犬飼。
でも犬飼が言うことはごもっとも。奇跡的に弓道部の2年はみんな同じ大学に決まった。何が奇跡って俺が合格できたことだ。受かってすぐはみんなと、主に夜久と一緒ってことで浮かれた俺だけど実際は学部が違うから会おうとしなければ今よりも中々会えなくなる。それは夜久だけでなくって犬飼にも言えること。まぁこいつとは会うだろうってもはや確信のようなものがあるけど。
「なぁなぁ犬飼」
「んー」
「これからもよろしくな」
「んー」
「…………聞けよおい」
感極まって思わず泣きそうになりながらそう言ったのに、すっげぇ適当な返事。くそぅ。空ばっか見やがって。少しくらい聞いてくれてもいいじゃんかよーと足元にあった石を蹴る。
「かわりそうもねぇよなぁ」
蹴った石が止まる時、ぽつりとそんな言葉が聞こえた。何がだなんて聞く気にはならなかった。そうであればいい。
「お前はとりあえず夜久にこくは」
「わーわーわーっ!!」
「うっせぇよばーか」
犬飼が目を細めて笑う。それが少し大人びて見えてまたさみしくなった。
「しかしお前の格好笑えんな」
「犬飼こそ!」
110309