今日は快晴だ。そうなったのはこの保健室にたくさん吊られているてるてる坊主のおかげなのか。はたまた昨夜星に願ったおかげなのか。いつもの俺ならどうでもいいことだが、昨日の夕方せっせとてるてる坊主を作っていた月子を見てしまったせいか、なんだか嬉しくなった。月子は俺よりも嬉々としている。窓を開け、空を仰いで、体を外に乗り出させていて。そんな月子を眺めながら今さっき綺麗になった机に座り、俺も星に願っといてよかったなんて思う。
「つーきーこ、そんなに体を出すな。危ないだろ」
見てください見てくださいとこちらをちらりともせずに言う月子に大人らしく注意してやる。だが言葉を付け足すならスカートが、だ。今日は休日だからあまり生徒はこないが誰かが来てこいつのスカートの中を見られでもしたらたまったもんじゃない。なのに当の月子は全く気にも止めていないようで苦笑いが出てしまう。
「だって嬉しいじゃないですか!やっと晴れたんですよ」
月子に言われて、たしかにそうだったと思い出す。今はもう梅雨に入ってしまい、ここ最近はほとんど毎日雲が空を覆っていた。実のところ、外には出ず、部屋にこもっていた俺はあまり覚えていない。
だけど昨日の夜。久しぶりに星がみえて、今日は快晴。嬉しそうな月子をみれば、俺まで嬉しい気持ちになる。
「だな。じゃあ午後どこにいくか、考えておいてくれ」
しかし残念なことに俺は保健室でやらなければならないことがある。仕事だ。せっかくの休日なのに月子に一日中つきやってやれなくて申し訳なく思う。それをさっき伝えるとこいつはじゃあお茶いれますね、と文句一つ言わずにお茶の用意をしてくれた。
窓際にいる夜久と、俺の手の中にあるマズいマズいお茶。改めて考えてみると俺はすごく幸せなんだと思えた。
「大丈夫ですよ。もう決まってますから!」
ようやくこちらを見たかと思うとすぐにまた空を見つめていた。表情は見えなくても声でどんな顔をしているか、容易に想像できる。見えるのは後ろ姿だけ。普段とは違い私服の月子はまるで別人のようで。そんなこいつの後ろ姿に目を奪われないよう俺も持っていることを忘れていたお茶に目をやり、それを手の中から机にとんっと置いた。
「今日はぶらぶら散歩です。行き先なんか、決めないで」
楽しそうじゃないですか?とまた俺の方を向く。同時に俺も顔をあげた。かち合った視線に自然と頬がゆるむ。
「そうだな。だが遠くまではいけないぞ、時間がないからな」
「わかってますよ。だからとりあえずぶらぶらできればいいんです」
「まぁ今度遠くまで連れていってやるから、待ってろな」
今度がいつになるかわからないが。できれば近いうちに連れていってやりたいと思う。
「はい、いつまでだって待ってます」
そういうと月子は窓を開けたまま窓際を離れ、ソファーに座った。一瞬こちらをみた後ソファーに置いてあった本を読み出す。俺も机に広げていた書類に目を移し取りかかった。こんな仕事はやく終わらせよう。優しいこいつを待たせすぎないためにも。はやくこいつと歩き出すためにも。
110220(再録)