目の前に拳銃を持った人がいて、その銃口が僕の頭を狙っていたとしよう。それから逃げる意味はあるのだろうか。

銃口を向けられたからといって本当に打つかもわからないし弾が当たるかもわからない。かといって本気で僕を殺そうとしていないとも限らない。そんな状況にもしも、置かれたなら。迷うことなく僕はただそれを受け入れるだろう。怯えることなく恐れることなく。きっと、笑って受け入れるよ。だってもうその状況になった時点で手遅れじゃないか。そこで何かしようと。拳銃の威力に勝る力を持っているなら逃げるべきかもしれない。だけど持っていないなら。そんなの、よく言うあれだ、無駄な抵抗だ。慌てふためいたって何も変わりはしない。それならわざわざ逃げるという行為はする意味がないと思った。



「誉さん?」
「ん、なんだい。どうしたの」
「誉さんがぼーっとしてるように見えて………映画、つまらなかったです、か?」


月子と行った映画の帰り道、僕はそんなことを思っていた。理由は映画の中にそういうシーンがあったから。大きなスクリーンの中で銃口から逃げる主人公を見てすごく滑稽に思えてしまった。たしかに主人公が逃げずにいてもしも打たれて死んでしまったら何もおもしろくはない。だけど、ああいうシナリオは好きじゃなかった。逃げるために背を向けて、打たれない可能性はどれくらいある?たぶん0だろう。わかりきってる。特別な訓練を受けてもいないのに暗殺といものが本業の人の銃口を避けれるはずがない。なのにあの主人公はそうしていた。自分はなんの取り柄もないといわれている、と冒頭でいっていた主人公が、だ。それはその映画が矛盾したものであることを表していて。すごく、笑える。


「大丈夫、すごくおもしろかったよ」
「ほんとうですか…?」
「うん、もちろん。月子こそああいう映画を観たがるなんてめずらしかったね」
「あ、それはですね、」


幼なじみに勧められたんです。それを聞いてあぁ、きっとその幼なじみっていうのは一樹を尊敬している方のかって思った。たまに月子はその幼なじみの愚痴をこぼすけど、本当はすごく信頼している、って話を聞いて気づいた。だからきっと彼がすごく勧めたんだろう。そのシーンがすぐ浮かんで、とても微笑ましい光景だったんだなと思う。でも、彼のオススメは残念ながら僕には良さが理解できなかったのだけれど。


「だけどなんだか、哉太がいってた良さがわかりませんでした」


思っていたことと同じことを月子はいったけど、僕とは違った意味でそう思ったんだろう。彼女は優しいから。たくさんの人が死んでしまうあの映画は好きではないはずだ。それなのに幼なじみのオススメだからって観ようと思ったところは、少し妬けちゃうな。



「それじゃあこれからレンタル屋にでもいこうか。それで月子が観たい映画を借りてこようか」
「いいんですか?」
「僕も違った雰囲気のを観たくなったから、ね?」


ダメなわけないのに、控えめにそういう彼女の頭を撫でてあげた。そしたら嬉しそうに、繋いでる左手を引かれる。月子はどんな映画を観たいんだろ。やっぱりラブストーリーみたいな映画かな。それなら、ふたりで楽しめるね。君は映画で、僕は君で。今度は幸せなことを考えられるものを観れたらいい。


101208
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