いつになく真面目な表情。そんな顔ができるなんて知らなかった。変わらずにいられたら、変わろうとしなければ、知らないでいられたのかもしれない。どちらにせよこれはもう終わりだという暗示なんだろう。


「今日は、ね」
「うん」
「錫也に話があって来たの」
「うん」


目元を紅くしながら笑って話す月子に何を話すのかわかっているとはいえなかった。きっとここに来る前に泣いていたんだろう。泣くくらいなら、と思う。ずっと気づいていないフリをして過ごしていたかった。それはもう出来ないとお前を見ればわかるけど。込み上げてくる想いに涙腺がゆるみだして、そんな情けない姿を月子に見られないよう手で隠す。「あーぁ」とわざとらしく言えば視界は歪んだ。


「錫也」
「…どうした?」
「ごめん、ね」
「………っ……」


気づかれないように目を瞑る。そうすれば自然と涙が出た。それが頬を伝う前に掌で拭う。やっぱり、手で隠しといてよかった。みっともない姿を見られなくて、よかった。


「ごめんね……っ」
「大丈夫、わかってるから」
「……ふ…ぅ………」
「だいじょーぶ」


何が大丈夫なのか俺自身わからないけど、それでも何度も大丈夫と呟く。月子は悪くない。謝る必要はない。勝手に俺がお前を好きになって、勝手にお前の優しさにつけこんだだけ。だから泣く理由なんてない。ないんだよ。頼むから自分を責めないで。責められるべきは俺だよ。望まずにいられなかった、俺のせい。最初はぽろぽろと涙を流していた月子は俺と同じように顔を手で覆いだした。違うのは手の隙間から聞こえてくる音が月子にはあるということ。俺は笑っているということ。
それだけ。


「月子はさ」

「忘れればいいよ」


笑って笑って、静かに告げる。震えるな声。伝えなきゃいけない言葉はまだある。俺もこの記憶を忘れると、お前は遠くへ行きなと。それと、それと。いつかまた笑おうと。はやく伝えろ。伝えてしまったら、それでほんとに終わりだから。俺が自分で終わらせろ。



「…な、俺はもう大丈夫だから」
「うん」
「月子ももう大丈夫だよな」
「う、ん」
「よかった」


言いたいかったことを全部言い終わって、また泣きそうになった。これで最後。明日には何も知らなかった頃に月子はもどる。俺は思い出を消して想いだけを持って生きる。この日がいつかムダではなかったと思えるようになることを祈って。やっと、顔を覆っていた手を下ろし最後に月子の頭を撫でる。覆っていたものがなくなった瞳は笑顔に隠した。今お前を見つめたらまた泣いてしまうから。それでもお前を好きになってよかったよ。後悔なんて微塵もない。たった一度だけもらった言葉、それだけでもういいんだ。
それすらお前は忘れてしまうけど。


(錫也の"大丈夫"が大好き)


俺はいつも、
その言葉で幸せになれたよ。





君が幸せの象徴だった
(きっとこれからも、)

素敵企画"Cry for the moon"様提出
100628


「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -