意識が背中にいってしまうことを気付かれてしまったらオレはもう二度とゆきに顔向け出来ない。これはただの布と木で、ゆきの寝台なんかじゃないと思い込ませるのがやっとだから自分のフォローが出来ない。せめて反対側にいたかった。いやしかしそうなると視界に常にあるということでそうなると余計考えてしまいそうで無理だ無理。今日ここに来てから無理なことばかりが溢れていて思考回路はショート寸前。今なら八雲にすら助けを求め……ることはないかどんなことが起きようと。だが一瞬でも考えてしまうほどには追い詰められてる自覚はある。ゆきにはないだろうがな。


「こないだチナミくんに教わった問題が小テストに出てね、点数が良くてお母さんにも誉められたの」
それはよかったな!としか今のオレには言えないから、頼むそういう嬉しい話は帰宅中にしてくれ。
真っ正面を見るとゆきがいて左右を見ると視界の端に布と木がちらついて下を向くしかない。視線を合わせずに会話をすることを「相手に失礼だ」と罵った過去の自分が来い。誰か一喝してくれ正気を取り戻させてほしい。

学校帰り、そのままの足で誘われるまま断ることも出来ずにここまで来てしまったのが一番の失態だった。もっと心構えをしっかりしていたらこんなにも焦って自分が何を考えているのかわからない状態にはならなかったはずだ。
後ろにあるのはただの布と木。ただの布団と骨組。ただの、ベッド、だ。


「チナミくん」
「な!なな、なんだ!」
「……やっぱり楽しくなさそうだね」
そんなわけあるかと反論しようとしたがたぶんしばらくオレは何も行動を取れなくなってしまった。
「ばっ…か!ゆき!離れろ!」
首に腕がまわされる。
体の前半分があたたかさに包まれる。
背中に何かが当たる。
取り乱したくないのに、頭の中が真っ白になって何も考えられない。
「チナミくん、ここにいるのにここにいないみたいで、寂しい」
冷水を全身にぶつけられた気分だった。阿呆かオレは。
「……オレにはまだ、刺激が強かっただけだ」
ゆきに聞こえないように、それでも声には一応出して応える。案の定聞こえなかったようで聞き返されたが、緊張して頭の中が真っ白になったんだと適当に省略して本当のことを伝えた。本当は抱きしめ返したいけど今ここで実行したらオレは死ぬとさとったから、頭を撫でるだけで、堪えた。
今は真っ白になってろ、オレ。

120615
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