冬に入り空気が冷え、針か爪楊枝みたいな細いもので突かれているのと同じ痛みを感じている。雪こそ降っていないけど降ってきてもなんら不思議ではない、それくらいには寒い。
はーっと吐く息だけでなくふーっと吐いた息すら白く、その白さが楽しいのだろう、隣でおもむろに何度も息を吐いて遊ぶ彼。
その姿は空気をからかっているようだった。なにより空気だけでなく、わたしもからかわれいるみたい。


「息、楽しい?」
「そうですねー楽しいですよ。どこまで白く吐けるか試みるという一人遊びは楽しすぎていつやっても燃えますね!」
「ふーん…」
わたしが記憶していた頃よりも成長しているはずなのに言うことの幼さは変わらない。
あの時も今も、人のことをいえるほど彼より自分が大人ではないと重々承知だが、だからこそやはり思う。
苓くんはどこか幼いと。
「苓くんが楽しそうで何よりですー」


そしてわたしだってまだまだこどもだ。隣にいるのにたった数分かまってもらえないだけでとてつもなく、つまらなくなってしまう。
寂しい。
大人がぴったり三人しか座れなさそうな、木で出来たベンチに肩が触れ合う距離で座っているというのにさっきから会話が弾まないのも寂しさの原因で、それはわたしが一方的に話して合間合間に苓くんが相槌を打つだけだから。
それだけじゃあつまらなくて寂しいに決まってるじゃない。
しかし彼の行動についての質問でやっと会話のようなものが成立できそうだった。今度はわたしが原因となって結局続かなかったけれど。
それでも、冬の寒空の下凍えそうなのは体よりも心で、そうなってしまっているのは苓くんのせいだ。大きな声で教えてあげたい。





「苓くん」
「はい」
「苓くん」
「なんですか咲耶さん」
「苓くん」
「はい、僕は水庭苓ですよ」

そんなことはできるはずもなく。解決策としてひたすらに呼んだ。
おかげで頭でも打っちゃったんですか大丈夫ですかとようやくまともとはいえないけどまともな返事をくれた。
ふふ、という声を含みながら彼はとても楽しそうに笑う。楽しそう、なのではなく実際楽しいのだろう。
かすかに触れ合う肩先から伝わる振動が物語っている。

楽しそうでいいね、わたしは、楽しくないよ。
苓くんが視界から消える方を向きながら心で呟く。間違いなく今、不細工な顔をしてる、わたし。
「咲耶さんはかわいいですね」


それなのにあなたは何を言っているんですか。


「咲耶さん」
「うん」
「咲耶さん」
「なに?」
「咲耶さん」
「……苓くん?」
「好きです、咲耶さん」




からかわれてるのが嫌なのも、もっとかまってほしいのも、そばにいれて嬉しいのも。
わたしだってそうだからなのを、知っているだろうに、ずるいね。
悔しいから応えてなんかあげないで、白を吐いてみた。

120508
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -