手を伸ばす、なんて動作が必要ないくらいに傍にいてほしい。そう彼女に伝えると彼女はただ笑って受け入れた。 「あはっ、君の手はいつ繋いでもあたたかいねぇ」 「それをいうならば貴方こそ。貴方の手はいつも冷たいです。秋や冬だけでなく春や夏でも」 「そうかな?あまり言われたことないけど」 「はい。私があたためなければと思う程には、冷たいのです」 だから僕らはいつも触れ合う。それが手であったり腕であったり。時としては首ですべてで、互いを感じ合う。離れている間を埋めてしまえるくらい。 彼女の膝に頭を乗せ今日もまた心地良い温度を求めていた。撫ぜてくれる手。繋がっている手。とても待ち望んでいたものだ。生きていくために、ほんの少し離れていた時間は短針が三分の一動くほど。たったそれだけの時間を離れていただけでも僕らは互いを求め合う。手を伸ばすなんてしていられない。抱きしめてしまいたい。指を動かしただけで君に触れたい。それが理想。 「君のあたたかさは僕をまどろみに誘う」 「やはり疲れているのではないですか?眠ってしまってもよいのですよ」 「君が手を放さないというなら、ちょっと眠ってもいいかな」 「もちろん。放すわけありません。だから安心して眠ってください」 彼女の言葉を信じて僕が身体の力を抜くと頭の上でいったりきたりしていた掌も僕の指を握った。あたたかい。だんだんと僕はまどろみに落ちていく。 110804 |