こくん、こくん。あ、ぶつかる。って、あれ?……ふふ、壁に頭をぶつけたはずなのにまだ起きないのかな?よほど疲れてるみたいだね。


久しぶりにきた星月学園は僕がいた頃と少し変わっていた。何が、といわれれば雰囲気がとしかいえないのだけれど。そんな中で彼女の姿を探したら思ってもいなかった場所で見つけた。そこはいつか君に勉強を教えた図書室。今は1人でよく来るのかな?それとも誰かと?なんて聞きたいことはたくさんあるんだけど何分僕が見つけた時彼女は壁近くの椅子に座ったまま寝ていた。肘をつきながら、ではなく背もたれに寄り掛かりながら。だから頭がこくんこくんと揺れていて。同時に夕陽に照らされた綺麗な髪の毛もゆらゆら、ゆらゆら。話せないのは残念だけどこんな君を見れたなら来てよかったって思える。立って見てるのもなんだから僕も近くにあった椅子を持ってきて彼女の隣に座った。そういえばさっき廊下であった宮地くんに最近のあいつはがんばりすぎてるんですっていわれたな。………本当に、そうみたいだね。今日はいつも電話で聞いてる声が聞こえない代わりに姿が見えるけど、やっぱり少し疲れているみたいだ。うん、来て、よかったな。君を近くで感じられる。それに寝ている彼女には悪いけど抱きしめたいと思った時に抱きしめられる。
ほら、今みたいに。


「………ん……?」


慎重にしたけどやっぱり起きちゃったかな。そう思ったけどすぐにまた規則正しい寝息が聞えてくる。思わず笑ってしまった。



君の瞳が開いたら、こんなところで寝ちゃダメだよって言おう。見つけたのが僕だったからいいけど他の男子生徒に見つかってしまったら何されるかわからない。君が傷ついてしまうようなことが起こるかもしれない。それは、とても怖いことだから。そんなことをいったら君はごめんなさいというだろうね。すごく悲しい顔で。そしたら今度は強く抱きしめよう。責めてるんじゃない、心配なだけだよって伝わるように。そしたら君は笑ってくれるかな。笑ってくれたら、いいな。


ただ今はその瞬間を待っているよ。





穏やかな夕
(時計の音が)
(心地よい)


100530



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「見えない臓器の名前は」
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