いつも好きだ好きだって煩く言ってるけど、全く振り向いてくれない君のことが、それでも好きなの。
「いってきます!」
「足下気をつけなさいよー!」
心配性の母親に、短く返事をして家を後にする。
「はあ……」
寒さに手を擦り合わせ、吐いた息が白く濁って消えていった。決して寒さだけではない震えを感じている人が、今日は全国に沢山いるんだろうなあ。
センター試験当日、全国の高校三年生が同じ試験を受ける日だ。
「おはよ」
母に言われたとおり足下に気を付けながら門までそろそろと歩いていると、声をかけられたことに驚いて転んでしまいそうになった。まったく気がつかなかった。でも声だけで誰かなんてすぐにわかる。
「あっぶねー」
「も、衛輔くん…」
私の決して軽くはない体重を簡単に受け止めてくれた衛輔くんは、三つ年上の近所のお兄ちゃんだ。世話焼きで、明るくて、いつも気に掛けてくれる、私の好きな人。
いつも私のことを心配してくれる衛輔くんだけど、もうすっかり口癖みたいになってる「好き」にはちっとも応えてくれない。適当にあしらわれて終わり。そんな軽口も今の緊張した私からは出てこない。
「ったく…受験なんだから気をつけろよー」
衛輔くんはそう言いながらも「驚かせてごめんな」って短い眉毛をハの字に下げてみせた。その表情がすごく優しくて、大人で。遠いな、って思う。三年の差を感じさせられるようで。
「ううん、こんな早くにどうしたの?」
まだ大学へ行く時間ではないはずだ。問いかければ衛輔くんはコートのポケットをごそごそと漁って何かを私に差しだした。
「緊張してるかと思って」
これ、と言って差し出されたのは小さな紅いお守りだった。確か、勉学の神様がいるところの。わざわざ行ってくれたの、かな。
「本当はもっと早く渡すべきなんだろうけど」
「…嬉しい!」
煮え切らない表情から一転、満足そうに笑った衛輔くんはひまわりみたいに明るくて、こんな冬の寒い日にも私の緊張を簡単に溶かしてしまう。ああ、好きだなあ。
「あと」
「?」
ふいに前髪を掻きあげられて、影が落ちる。額にやわらかい感触。
「緊張しないおまじない」
それが彼の唇だってことはすぐにわかった。触れた額を押さえて茫然とする私はきっと茹で蛸のように真っ赤だろう。
「一緒の学校行けるの、楽しみに待ってるからな」
バツが悪そうに後ろ頭を掻いてはにかんだ衛輔くんに心拍が上がっていく。そんなの私もだよ。三年の年の差は学生の私達にはすごく大きい。中学も高校も被らないからすごく寂しくて。だから衛輔くんのいる大学に行きたいのだ。
再確認させられた。同じ大学に行きたいこと、衛輔くんが好きだってこと。だから今日、頑張らなくちゃ。
「……衛輔くん大好き!」
「こ、こら外だぞ…!抱きつくなってば!」
「わたし頑張るから!」
少しだけ耳が赤くなってるのが見える。少しは期待しちゃってもいいのかな。
ねえ、追いつけなくても傍にいるから、お願い、もう少し待っててね。


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