どうしても不安になるんだ。
君には多分、もっと


「孝支さん!」


目を開くと何処か心配そうな顔をしたなまえの顔があって。


「…俺寝てた…?」
「はい、…あの大丈夫ですか?」
「うん?なんで?」
「えっと、その、少し魘されていたようだったので」


俺の様子を窺うように覗き込むなまえに自然と頬が弛む。


「いやー、レポートに終われる夢を見たら、ねぇ」
「そ、それは…大変でしたね」


お疲れ様でした、と少し笑いながら言ってちょこん、と隣に腰掛けた。


(小さいなぁ…)


ふい、と隣を見ると彼女のふわふわの髪が目に入る。
雨の日は大変なんですよ!と必死に話していたなまえを思い出して一人クスリと笑う。


「?なんで笑ってるんですか?」
「ううん、なんでもないよ」


そう言いながら俺のお気に入りの髪に手を伸ばす。
くしゃり、と撫でるとまるで猫のように目を細めてゆっくりと俺によされかかった。


(ああ、)


なんて、


「…ふふっ」
「…どうしたの?なまえ」
「幸せだなって、思いました!」
「…あぁ、俺もだよ」
「ほんとですか!?」


ぱっ、と顔をあげて目を輝かせる様子に今度は声をあげて笑う。




幸せ、だと思ったのは確か。
でも何処か、心の深い部分が、冷えていくように感じた。





「うぅ、、、寒い…」


風がびゅうびゅうと吹き抜けていく。
首を竦めながらふと前を見ると見慣れた彼女。
とその隣に、見かけない男の姿があって自然と足が止まった。
でも次の瞬間、自分の足は勝手に走り始めていて。


(頭では、分かっているんだ…!)


俺の存在が君を縛っていることを。
でも、


「っなまえ!」


気持ちがついてこないんだ。


「孝支さん?」


驚いたように振り返って目を瞬かせる彼女。
でも目があった瞬間、花が咲いたように笑って、


「ごめんなさい、彼氏が来たので、失礼します!」


そう隣にいた男に伝えて此方へ駆けてきた。


「早かったですね!」


すごく嬉しそうに笑うから人目も構わず思わず抱き締めてしまった。


「どっ、ど、どうしたんですか!?」
「…ねぇ、俺は、」
「…孝支さん?」


続きを促すような彼女の声に、つい本音が溢れてしまった。


「俺は、もうなまえを手放せない」


はっ、と息をのむような空気が伝わって途端に後悔した。
冗談だよ、と口を開きかけて


「ふふっ」
「…なまえ?どうして、」
「愛されてるって、感じました」


へにゃりと本当に、ほんとうに幸せそうに笑う彼女。


「…孝支さんは、」


少しだけ寂しそうな表情(かお)をしながら呟いた。


「孝支さんは、私なんかと違ってもう大人だから、怖かったんです、」


いつか、捨てられるんじゃないかって、ずっと怯えてたんです、


「っ、」


知らなかった、なまえがそんな風に思っていたなんて。
いつもいつも、俺の前で笑いながら不安だったのだろうか―――――俺、みたいに。
そう思った瞬間胸がギュッ、と捕まれたように痛んだ。


「でも、でも、もう終わりにします」


そう言って俺の目を見た彼女の顔は、


「言葉にしないと伝わらないことがあるって分かったから、」


とても美しい"少女"ではなく"女"の顔をしていた。


「だから、もう離さないで下さい」
「…うん、もう頼まれたって離してあげないから」


額をコツリと合わせてお互いにクスリと笑った。









どうしても不安になるんだ。
君には多分、もっと相応しい男(ひと)がいるんじゃないかって。

でもそんな時にはまた今日のように俺に愛を囁いて。

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