鎖(微糖)
「人間は生まれながらにして自由であるが、しかし、至る所で鎖につながれている、これはどこかの偉い学者が言ったらしいよ。まあ、誰が言ったかなんてどうでも良いことだけれど、実に的を射た言葉だと思わないかな。」
私の口からスルスルと出て行った言葉は、カウンター席のふたつ隣に座る彼の鼓膜を振るわせた。
「難しい話は好きじゃねえんだ。」
店の主は買い出しに出ていて今はいない。騒がしい仲間もいない。二人だけの空間。
カラン、と彼のグラスの中の氷がなる。
「簡単な話だよ、尊。」
貴方は“赤の王”という地位と力の鎖に縛り付けられていて、その鎖は貴方の首を絞める縄にもなるということで、まあつまり、自由であるはずなのに自由ではないということだよ。
カラン、と今度は私のグラスの中の氷がなった。
「よくわかんねえな。」
「だろうね。」
私もよくわかんないや、肩をすくめてグラスの中身を一気にあおる。
グラスに存在していた液体の半分が、私の胃に流れ込み消えた。
「かく言う私も不自由してるよ。血の気の多い王様に仕えているんだもの。」
指先で氷をつっついて、残り少ない液体の中に沈める。
指で押された氷が、カラン、となった。
「さながら、その“血の気の多い王様”がお前の鎖ってとこか。」
気怠そうに、しかしどこか楽しそうに言う彼に、私は「そうかもね。」と同意して、グラスの中の残りの液体を全部の飲み込んだ。
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