君は酸素(切?/シリアス/死/微糖?)








暗い洞窟の中を
杖の先に光を灯して歩いた
自分の足音が反響して
一人きりで歩いているはずなのに
二人で歩いているみたいだった


ひたすら歩いて
湖にたどり着いた

光が水面を照らす
暗い湖は波立つことなく
ただ光を反射している

恐ろしいほど澄みわたった水だ

─本当にここにいるのだろうか

ほとりから水中を覗いてみたが
そこに期待したものはなく
深すぎる底は果てが見えない


「ねぇ、いるんでしょレギュラス」

私は湖に話しかけた


クリーチャーから聞いた
レギュラスは死んだのだと
もう帰ってこないのだと
だから、こうして私が迎えに来たのだ

レギュラスは湖の底にいる
しかし、仮に私が潜って
レギュラスを引き上げたところで
彼は笑いかけてはくれない
抱き締めてもくれない
私が生きている限り
もうレギュラスと同じ時を歩むことは
できやしないのだ

ならばどうすれば良いか
そんなことは分かりきっている


「あのね、私も今そっちに行くから」


杖を地面に置いて水面に触れた途端
湖から現れた亡者が私に向かってきて
あっという間に暗い湖の中に
引きずり込まれた


きっとレギュラスも
こうやって死んだんだ

衣服含まれていた空気が
泡となってこの身を離れ
吸い寄せられる様に
水面へとのぼって行くのを見ながら
ぼんやりと考えた

ごぽりと肺の空気を出してみれば
代わりに水が入ってきた
肺の中は水の味がした


水中から見た地上は既に遠く
僅かに射し込む光が
まるで彼が迎えに来てくれたみたいで
自然と笑みが浮かんだ


誰かが一番苦しい死に方は
溺死だと言っていた気がするけれど
それは嘘だと思った
確かに苦しみがないわけではないが
レギュラスのいない世界にいる方が
よっぽど苦しかった


もう衣服に含まれていた空気も
肺の中の空気も全て出ていった
空気の代わりに飲み込んだ水は
酷く冷たかったが
どこまでも甘く穏やかだった


瞼を閉じる瞬間
彼が私を呼ぶ声が
聞こえた気がした




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