合わない焦点(切?/悲)


※シリウス→ヒロイン→レギュラス






例え誰かが死んでも
この世界は変わらず回り続ける
まるでそんな人間なんて
最初から存在しなかった、
とでも言う様に
いつも通り、めまぐるしく
世界は塗り替えられ
回り続けていく
確かに存在していたのに
存在していなかったかの様に
証拠も記憶も薄れていく

「それが恐いの」


姫は、まるで
世間話でもするかの様に
サラリと微笑みながら言った

何ともない様に
微笑みながら話しているけれど
彼女の手が小さく震えていることを
俺は知っている


「そうか…」


姫の背中にするりと腕を回して
抱き締めながら背中を撫ぜてやると
彼女は一瞬息を詰まらせて
それからゆっくりと息を吐きながら
遠慮がちに俺の背中へ腕を回してきた

お互いに何も言わないで
静かに抱き締め合った

しばらくそうしていると
ぽたりと音がして
肩と背中が少し冷たくなった


「忘ちゃいそうになるのが恐いの」

「そうか…」

「思い出せなくなってきてるのが悲しいの」

「…ああ」

「愛してる、なんて、口先だけだったのかな、って」


そう言って姫は
遂に声を上げて泣き出した

俺も泣いてしまいたかった


「レギュ…っ」


今、姫の目の前にいるのは
確かに、紛れもなく俺なのに
姫が見ているのは俺じゃない

まるで俺なんて人間は最初から
存在していなかったみたいに
彼女の中にはアイツしかいない


「もう、忘れちまえ…」

俺は奥歯を噛み締めながら
呻くように言った



合わない焦点

(俺を、見て欲しいんだ)




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