言わぬ女と知らぬ男(切/死)








勢い良く開け放った襖
その向こうで
布団に横たえられ
静かに眠る愛する女、姫の姿に
小十郎は、表面上だけでも
冷静を保つことに集中した

頭の中は混乱を極めている

上下しない胸元
聞こえない寝息

男が、女は死んだのだと理解するまで
酷く時間がかかった


以前から政宗の侍女として
使えていた姫は、
政宗曰く、半年前から
体調が悪かったらしい
小十郎は、何も知らなかった
恋仲であったにも関わらず、
知らなかった

聞いて初めて、知った

そして、ちょうど彼が
所用で城を空けていた時に
姫の容態が悪化したのだと
先程、政宗から聞いた

聞いて初めて、知った


何も知らずに城を空けていた小十郎は、
姫の眠る布団の横に膝をついて
彼女の頬をそっと撫でた

いつもほんのりと赤かった
彼女の頬も唇も
まるで雪のように白く冷たかった
それは、彼女がもう二度と
目覚めることはないということを
静かに主張している様だった

「姫…何故……」


「あいつは最期まで小十郎の名前を呼ばなかったぜ」

後を振り返ると
いつの間にやって来たのか
開け放たれたままの襖に
背を預け腕を組みながら、
政宗が言った

「ただ黙って、すまなかった、と…そう言っていた」

政宗はそれだけ言うと
襖を閉めて出ていった


「何も、知らなかった…何故……」

一人残された男は、
きつく拳を握った

「何も、言ってくれなかった…?」

そう問いかけたところで
返事はない


まだ白い布すら掛けられていない
息を引き取ってから間もない女の前で
男は静かに涙した



何も言わなかった女
(お荷物には、なりたくなかったの)

何も知らなかった男
(一緒に背負ってやりたかった)





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